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#映画感想文230『AIR/エア』(2023)

映画『AIR/エア』(2023)を映画館で観てきた。

監督はベン・アフレック、脚本はアレックス・コンベリー、主演はマット・デイモン。

2023年製作、112分、アメリカ映画だ。

マット・デイモン演じるソニーは、ナイキ本社のバスケットボール部門を担当している。しかし、当時のナイキのバスケットシューズは、コンバースとアディダスの後塵を拝しており、ナイキはランニングシューズで収益を得ている会社だった。今となっては信じられないことだ。わたしはバスケットボール選手としてのマイケル・ジョーダンのことをほとんど知らないが、エア・ジョーダンの転売が事件になっていたことは覚えているし、コレクターが多いことも知っている。

本作では「エア・ジョーダン」というブランドを作る過程が描かれている。高校バスケットボールで活躍したマイケル・ジョーダンを青田買いしたうえに、靴の契約を結ぶだけでなく、象徴的な人物として祀り上げ、記号にまでするプロジェクトだ。もちろん、マイケル・ジョーダンは、デビュー後にも大活躍をして、アメリカの象徴的な人物となる。ナイキの戦略と本人の実力の相互作用がさらなる神話化に貢献したのだろう。

冴えない中年であるマット・デイモンが東奔西走して、マイケル・ジョーダンとの取引をまとめ、選手個人の名前を使ってブランドを作り、そのうえ靴の売り上げの一部が選手個人に還元される仕組みまでが作られていく。(靴の印税制度のようなものだ)いわゆるお仕事映画で、派手さはない。ただ、マイケル・ジョーダンという選手自体が、アメリカのスポーツの歴史においては偉大であるがゆえ、本作はノスタルジー込みで評価されているのだろう。

(日本の映画『ファーストスラムダンク』や今週公開の『スーパーマリオブラザーズ』も、映画として優れているのはもちろんのこと、「懐かしさ」まで売りにしていることは間違いない。人間は自分の思い出が大好きなので、それを喚起させることのできるビジネスは最強だ。そういえば、クレヨンしんちゃんの『オトナ帝国の逆襲』というのは、そのような懐古主義的な人間の弱さを指摘したものだった。人間は懐かしさには滅法弱く、抗えないのだろう)

マット・デイモンが大活躍する映画を親友のベン・アフレックが作っているので、そりゃ楽しい。近年、二人の距離は近しい。自分の出たいような映画のオファーがあまり来なくなりつつある、という中年ならではの苦悩を二人は抱えているのかもしれない。

若くして成功した二人は、若者が主人公ではないおじさんムービーを作ることができる。これは90年代に成功した二人にしかできないことだろう。そう考えると、そのような当時の「おつり」を使って映画が作れる二人はやはり特別であり、特権があるのだろう。わたしのような客も呼べるしね。

まあ、おそらく、マット・デイモンとベン・アフレックは「親友」というよりは、お互いに超信頼できるビジネスパートナーなのだろう。あと、ある程度、年を取ったら、人間は自分で自分の仕事を作らなければならないのだな、とそんなことまで考えさせられた。

【追記】2023年5月15日

2023年4月に公開されたばかりなのだが、5月12日からAmazon Primeで配信が始まっている。早すぎてびっくりである。Prime会員の方はぜひ。

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