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言葉は手を動かすこともできるし、手を止めることもできる

1ヶ月前ほどから夕食後の薬を飲むと吐いてしまう。だから数日前から薬を飲んでいない。

そのせいか夜なかなか寝付けない日が続いていた。
いつも夢の中へ潜り込むのは時計が2時を指す頃だった。

最近まで調子が良く、「このまま大学生活やっていけるかも!」と思っていた。
しかし、金曜日に授業が始まる時間を間違えてどうあがいても間に合わないので「体調不良で欠席します」と教授に嘘のメールを送ってから自己嫌悪に陥っていた。

それがきっかけなのか、薬を飲まないようにしていたからか、私は現実から逃避するために自分を傷つける選択肢を取った。

「死なないで」「無理しないでね」
こんな言葉をよくかけられるけどそれがプレッシャーになることをきっと彼らは知らないだろうな。

加えて、妹が受験生なので母が某有名大学を勧める話をほぼ毎日聴いている。
学歴にコンプレックスがある私にとっては傷口に塩を塗られているような気分だった。

学習デスクの引き出しの奥に封印していた箱から一本の刃を取り出す。
一昨年に購入して5月辺りに使ってそれ以来使わないように目に入れないように引き出しの1番奥に隠していたものだ。

刃物を持った私の右手は震え、両手から変な汗が滲み出ている。
足がガタガタ震えている。

ついに決心して手を横に動かす。
私の左腕には赤い線ができてその中から小さな赤い液体がポツポツと現れ始める。

一度スイッチが入るとその行為はどんどんエスカレートしていった。
私の右手は止まることを知らないように動いていた。

左腕の半分が赤い線でほぼ毎日埋め尽くされると私の心は満たされたのか手が止まった。
「死ぬよりはマシだ。これは私が生きていくための行動なんだ。」
そう自分に言い聞かせた。

もう半分と右腕は明日にしよう。



そして翌日、夜を迎えた。

私は昨日使った刃物を手に取る。

腕まくりをして準備をする。
昨日は深く切った箇所もあるので傷跡も残るだろう。もう半袖は着れないかもしれない。

「待てよ、この傷跡を見てくれると私の痛みは他人に伝わるかもしれない」
今思えば浅はかな考えだった。
なぜならば、それはコミュニケーションをすることを放棄することに繋がるからだ。

いよいよ手を横に動かそうとしたとき、親友の言葉が頭をよぎった。
「切ってもいいけど、見えないところにしなよ」彼女は私が現実から逃避することを否定しなかった。でも、条件を設けた。

私はハッとして手を止めた。
悪い夢を見ていたような気分だった。

次、親友と会うとしたらきっと夏だ。
そのときにこの傷を見られたら彼女はなんて言うのだろうか。

私は心の中で謝った。
「ごめんなさい。私は約束を破りました。」

その後こう言った。
「止めてくれてありがとう。」

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