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ITが発展した現代人だからこそ感じる”退屈”に切り込む名著「暇と退屈の倫理学」が面白すぎた

こないだ「暇と退屈の倫理学」という本を読みました。めっちゃ面白かったので、概要とか感想を書いていきます。


どんな本なのか

ざっくりいうと、「現代人ってみんな忙しい割に毎日変わり映えしなくて退屈してるよね。それってなんでだろうっていう理由を突き止めた上で、どう過ごすべきかを示していくよ」という本です。

書名の通り、倫理学というのはその名の通り倫理、つまりどう生きるべきかを突き止める学問であるから、それを暇と退屈という切り口で深めていくという本ですね。


現代人って退屈なの?

僕は少なくとも「現代人は忙しいけど退屈している」という問題提起にグサッと来ました。

仕事は忙しいのはもちろん、休みの時間でさえも、SNSを眺めたり、最新のニュース記事を追い求めたり、流行りの店や服やゲームやマンガを調べたりと、余暇時間までも色々とやることがあるので退屈はしていないように見えます。

でも、SNSをぼーっと眺めていてもただ時間がすぎるだけだし、みんなが面白いというゲームをやっても、面白いに決まっているわけだから意外性もないし、ニュース記事は誰かが誰かの価値観で書いているからそのとおりに受け取るしかないわけで。

数年おきに、スマートニュースだったり、Twitterだったり、TikTokだったり、NewsPickだったり、どうぶつの森だったり、余暇時間を誰かの価値観で埋め尽くすようなサービスが出てきては、盛り上がって、また新しいものに移り変わっている。

その事実自体が、ちょっと引いて見たときに、退屈そのものなのではないかと思ったので、グサッと来ました。


昨今のこういった現状から、余暇時間をどうやってビジネスにするかといった着眼点のビジネス書は巷に溢れているのですが、それを人間の生き方として倫理的なのかという着眼点で切り取った、本書のアプローチはとても斬新で、本質的です。


本書の論理展開

こういった問題提起のユニークさもさることながら、この問題提起に答えを出していく論理展開が大変ユニークです。

まずは、暇や退屈といった言葉の定義を明確にします。暇は時間があること、退屈は人間がそう感じていること。つまり主観と客観の点で違うわけですね。

続いて、人類史をさかのぼって、どの時点で人間は暇になったのか、どの時点で退屈を感じるようになったのかを考えていきます。ここで、元来人間は遊牧民的な、常に移動し続ける生活をしていたが、ある時代から定住するようになった、これが退屈の根源だというように持論を展開しており、大変ユニークです。

また、中世〜近代の時点で資本主義革命が起きて、労働者階級が生まれ大半の人から暇がなくなった。しかし現代は労働者の休み時間が法的に確保されており、長い間暇を知らなかった人たちが急に暇な時間を持つようになったという時代背景から、退屈という感情の大本を探っています。

暇や退屈について考察するだけと思いきや、唐突に人類の歴史をさかのぼり始めて、それをしかも人間が暇や退屈を感じるかという精神世界での変化という切り口で語っているのが斬新で読み応えがありました。


まさかの問い「時間とは何か?」

この調子で人類史をさかのぼり、史実と、それぞれの時代の哲学者の見解も織り交ぜながら暇と退屈について考察を進めていきます。

そして、ある哲学者が、実はすでに退屈という感情について整理しており、退屈には3つの種類があることと、そのうち3つ目の最も深刻な退屈な状態からどう抜け出すべきかを示しているという事実を明らかにします。

しかし、その哲学者の「どう抜け出すべきか」は大変抽象的で、例えるなら、長い割に結論の面白くない自己啓発本のような結論でした。

そのため、本書では、その哲学者の退屈の分類は参考にしながら、それぞれの退屈の原因と違い、それにどう対処していくかを改めて考えていきます。


ここまで来ると後半なのですが、そこで「時間とは何か?」というまさかの問いが投げられます。

というのも、退屈というのは、自分が過ごしている時間に対してどう感じるかという主観の問題なので、そもそも時間とは何かを定義することで、問題をより明確にしようという考え方なのです。

で、ここでもまた、非常に科学的で、でも今まで考えたことのない衝撃的な方法で「時間」を定義してしまうのですが、暇と退屈の本を読んでいるのに時間について学んでしまったのも読んでいて驚きでした。


で、結論は?

結論についてはネタバレになるのでぜひ本を読んでください。笑

ネタバレになるというのももちろんなのですが、何より、上記の論理展開を踏まえた上での結論なので、結論だけ書いてしまうと薄っぺらい主張になってしまうんですよね(この点については本書内でも書かれています)。

具体的なハウツーというよりは、割とコンセプチュアルな結論にはなっています。

でも、正直「退屈」というテーマが大きすぎて、ハウツーに落とし込むと誰にも適用できなくなるとは思うので、コンセプチュアルな結論で落とし所にしていてむしろ良かったなと思います。

話がずれますが、最近の自己啓発本は「俺はこうやった」みたいなのが多くて、それがなぜ効果的な手法なのかが欠けている気がするので、それよりは論理展開に全振りした本書は得るものが多い気がします。


個人的な考察

本書内でも似たようなことは書かれていますが、僕が思うに、ひとえに「学がない」から退屈するんだろうなと感じました。

知識がないから、みんなが面白いと言っているものを面白いと思って受け取るしかないわけです。

僕はエンジニアをやっていますが、自分より凄腕なエンジニアが、「この技術はモダンだ!」といっているものを、思考停止でそのまま受け取っているようでは、ファッションもわからないのに流行りの服をとりあえず着ているのとなにも変わりません。

退屈しないためには、この、簡単にそれっぽい情報がキュレーションされる世の中で、あえてそれでも自分で学び、自分の価値観で未来を手にしていくことが大事だと感じました。

知らないことを、どうせ知らないからとか、プロがなんとかしてくれるからと放置すると自分の価値観で判断できなくなります。その積み重ねが、退屈を生んでいるというのが僕が至った考えです。逆に言えば、知らないことを放置しても生きれるようになったのが現代ということですね。


という感じで感想文は終わりにします。ぜひ読んでみてください!増補新版のほうを買うのをお間違いなく。




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