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ファストな社会とスローに向き合いたい

あなたの魅力を1000パターンの言葉で表現したい。
その1000パターンを思いつくまでの貴重な時間稼ぎが、今この外出できない状況だ。外に出るまでに別人にならないといけない。根本的にレベルの違う人間に生まれ変わりたい。

子供時代の私は、戦争が怖かった。人が憎しみ合うのは避けられないけど、剣(暴力)ではなく、ペン(言論)で闘って欲しいと願った。
かといって、本質的な対立を避け、表面的に笑ってやり過ごすのも、事態の解決には程遠い気がした。

どうやらおかしいと思ってたんだ、ここ2年くらい。今日ドイツにいるのに明日の昼には東京に着いてるなんて、簡単すぎやしないか、と。海外パートナー急かして、モノを金曜に発送してもらえば、月曜の朝には届いてるんだから。
なんて便利な社会になったんだろう、そう思ったらこの有様である。
易きに流れるのは、いつの時代も危険なのだ。

時間に対する考え方だって、どうだろうか?次の日には大陸を越えてる訳だから、物事の回転がいちいち速い。人の頭の切り替えも。
これがダメなら、次はあれ。私たちはファストフード化した社会に生きていて、ファストに消費していて、過去を振り返らない!
過去にしがみつくなんて、ジメジメしてる。かっこよくない。そんな考え方さえ浸透してる印象を受ける。
私たちは消費する際、小さな小さな競争をさせることにすらなった。対象物の品質や価格を「比べる」ことによって。
人だって同じでしょう?
採用したい人を「比べる」し、交際したい人を「比べる」でしょう。
大事にするより先に消費しちゃってる。人とモノの価値が同列かそれ以下になってる。私だって、消費してるし「比べてる」それでいいのかな?

もっとちゃんと向き合わなくていいの?選択肢がたくさんあるから、いちいち考えなくていいよ。変わりなんてほかにいくらでもあるよ、いるよ。
そんな気持ち?
誰でも、どれでも、いいんだ?

こいつ面倒くさいから、向き合わなくていいや。
そんな風に、昔懐かしき不便な道具たちに対して、ペーパーフルな慣習に対して、情け深い人間に対して、思ってるんじゃないかな?

輝かしい先進的なサービスたち。
ワンクリックで届くサービスたち。
ボーダーレスな経験たち。
それらを獲得した先には、飽くなき探究心が待っているのかな?
もっと便利で、もっと速くて、もっと効率がよくて。

そしたら、私たちの考え方はどう変わるのかな?私は想像してみた。
たぶん、喋らなくてもよくなると思う。人と会話しなくても社会が回るっていう状態に近くなる。
喋らなくなったら、動かなくなる。私のかわりに何かが、誰かが、私の見えないところでたくさん動いてるんだよね。
すでにそうなっているものね。

人間に本来備わっている底知れないパワーを、私だったら殺したくはない。
不便でいいよ、不便であればあるほど考えなきゃいけないから。
時間がかかってもいいよ、それだけ楽しみが増えるから。それだけ深い答えを出せるから。

人間が何でもかんでも掌握できると考えるのは、とても危険。それは自爆行為だと思う。
人間が生み出した便利さが、弾丸になって私たちに跳ね返ってきてしまう。
でも、人間の持つパワーはすごい、ということは間違いがない。それは支配力とか、そういう次元の話ではなく、人間の葛藤と向き合う力、危機を克服する力、困難から何かを生み出す力のことだ。
弱さや無力さを自覚すればするほど強い。
私は、今の状況を絶望だとは考えていない。たくさんの困難に毎日打ちのめされても、歴史を知ればこそ、新しい秩序が生まれようとするその反動なのではないかとさえ思う。いや、そんなこと軽々しく述べるべきでない。でも、芽吹きを感じる。
だから本を読む。自分を追い詰めさえする。私が新しい自分になるには時間が足りていないとさえ感じる。こんな時に時間を欲しいという貪欲さがある、それは恵まれている。
明日は我が身、諸行無常。それは自覚した上で。

もし今が何もない、変哲のない、いつもの日常であったら、私は過去を振り返ることなく、つまりはあなたを振り返ることなく、あなたのことを忘れて、先へ先へと進んでいただろう。同時にそんな回転の速い生き方は、知らず知らずのうちに私を、社会を疲弊させていたのだ。
だからあなたも、もっとゆっくり生きて、過去を振り返ってほしい。過去が教えてくれることは、たくさんあるから。

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