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世相を映して変化する、"ネット炎上"の傾向10年間まとめ

「炎上」という言葉は印象に残りやすく、また事象を表すのに便利なので、今日では広く一般に定着しています。

炎上とは、「インターネット上で、収集がつかないほど多くの批判を浴びること」。しかし実際にはその内容はさまざまです。

・ 当事者に何らかの非があり多くの批判を浴びるケース
・ 「極端な発言」や「賛否の分かれる行動」が物議をかもすケース
・ 広告などが差別的・侮辱的か否かで、議論が激化するケース

これらは全て「炎上」と呼ばれます。でも原因も状況も全て異なっていますよね。よって対処方法も異なります。

時代と共に炎上構図は変化してきました。そこで、炎上対策の助けにすべく、10年間の炎上事例について調べてみました。

以下は調査結果を踏まえての所感です。長いので、結論だけ知りたい人は「まとめ」まで飛ばし読みしてください!

◆~2010年:芸能人のブログ炎上

まだスマートフォンが普及する前の時代です。当時は、”炎上”と言えばブログ炎上を指すことがほとんどでした。

ブログ炎上にも大きく2通りあります。
ブログ投稿の内容自体が批判されるケース
②投稿内容とは関係なく「この人に一言物申したい」とコメント欄に集まるケース

①のブログ投稿内容が批判されるケースは、近年のSNS炎上にも似ていますね。
②は、テレビ等での発言や不祥事のニュースなど、ブログ投稿内容以外をきっかけに起こります。時にはデマ・誤情報が炎上のきっかけになることもありました。また、本人がブログを運営していない場合、その家族や関係者のブログが代わりに炎上することも。

ブログにコメントが大量に寄せられると、"祭り"、 "ブーム"として、雪だるま式にコメントが増え、過熱して誹謗中傷に発展するケースが多数見られました。また一度炎上すると、その後もくり返し炎上するようになり、長引くケースも。

◆2011-2012年ごろ:一般人の投稿が炎上

2011年ごろから、炎上件数がぐっと増加しました。

2012年には、ペニーオークション詐欺事件が発生し、多くの芸能人が宣伝だと明示せずにプロモーションのためのブログ記事を書くなどの、いわゆるステルスマーケティングを行っていたことが発覚して話題になりました。「ステマ」という言葉をこの事件で初めて知った人も多いでしょう。

こうした芸能人のブログ炎上は引き続き発生しているいっぽうで、この頃から一般人の炎上事例も目立つようになります。

まったく有名ではない一般人であっても、炎上する当事者になるケースがしばしば起こるようになりました。たとえば「ホテル従業員が有名人の来店情報をTwitterに投稿する」など業務情報を漏えいさせる行為や、「幼い子供にたばこを吸わせる動画をFacebookに投稿」のように虐待を思わせる行為を行うと、発見・批判されるようになります。一部では、炎上した本人が誰なのか個人情報を特定しようという動きが起こり、個人情報がインターネット上で公開され問題になりました。

一般人の炎上増加の背景には、スマートフォンとSNSの普及があります。
スマホとSNSの普及で、個人発信によるコンテンツが、SNSという共通のプラットフォームに投稿されるようになりました。これにより、今までは目立たなかった例が容易に発見され、また拡散されるようになったのです。

◆2013年:バイトテロ炎上

従業員が業務上不適切な行動を行っている写真をSNSに投稿する、いわゆる"バイトテロ"が、最も多発したのは2013年でした。炎上といえばバイトテロを連想する人も多いと思います。

この年、コンビニのアイス用冷蔵庫に入る写真が話題になったのをきっかけに、従業員が不適切な行動を行っている事例が次々に発見されました。

当時話題になった炎上事例の多くは、不適切な行動をとっている「写真」でした。写真はひと目見て理解できることから、多くの人に衝撃を与え、瞬く間に拡散していきました。写真があるほうが、悪い意味でもバズりやすいんですね。

バイトテロが起こると、その店舗・投稿した人物を特定しようとする動きが発生します。結果、多くの人が炎上した店舗の利用を控えるようになり、店舗は深刻なダメージを受けました。全国展開の飲食チェーン店が被害にあうケースが大半でしたが、中には個人経営の飲食店が破産に追い込まれたケースもあり、社会問題になっています。

◆2014年-2015年:異物混入報告・広告炎上

政治家の失言、著名人および一般人の問題投稿も変わらず発生していますが、「企業」の炎上も目立つようになります。14-15年に発生した企業の炎上は、大きくは3パターン。

① 企業アカウントからの失言や、誤投稿がきっかけで批判されるケース。
例えば、ある企業アカウントが8月9日(長崎に原子爆弾が投下された日)に「なんでもない日おめでとう」と投稿してしまい、批判を浴びました。

② 企業の不適切な行動が告発されて、批判されるケース。
2014年末ごろ、カップ焼きそばに虫が混入していたことがTwitterで報告され、その後の対応をめぐる騒動もあって販売中止に追い込まれました。以降、SNSにおける異物混入報告が相次ぎました。

③ 企業や団体の「広告」が賛否両論となるケース。
ある商業施設のCMが、賛否両論を巻き起こす事態が発生しました。CMは、ある女性が上司らしき男性から、見た目が華やかではないことを揶揄される発言をされ、もっと職場の華らしくキレイにならなければと考える、というストーリー。このCMの内容に対し、「セクハラを肯定している」「不愉快な表現」との声が多く上がりました。

この炎上に特徴的なのは、批判の声だけでなく、「何が問題なのか」「過剰な反応だ」といった批判に対する反論の声も多く上がったことです。二項対立の構図は、よくも悪くもバズりやすい形です。CMが論争の火種になる事で、炎上の話題はより多くの人に知られるようになります。

☆~2015年炎上傾向まとめ

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◆2016年:一般人の投稿がきっかけとなる「議論型炎上」

芸能人の不倫スキャンダルや、政治家の不適切発言などは、相変わらず注目を集める話題です。2016年にも、多くの批判を集めるニュースが複数発生しました。

いっぽうこの年には、一般人からの発信をきっかけとして起こった"議論型炎上"がありました。「保育園落ちた日本死ね」に関する一連の話題です。きっかけは、「こどもが保育園に入所できず仕事を辞めざるを得ないかもしれないという話について書いたブログがインターネット上で話題になったことでした。
「自分も本当に苦労した」「保活は深刻な問題」など、ブログの内容に共感・賛同する声のいっぽうで、「『死ね』という言葉が問題」「引っ越せばいい」など反対する意見も多く上がり、SNS上で論争になりました。

この話題は複数のネットニュースやテレビでも取り上げられ、多くの人に知られることとなりました。これだけでも十分「炎上」といえますが、この話題は国会答弁でも取り上げられました。国会答弁をきっかけに、著名人含め多くの人が自分の意見を表明し、賛否の声がさらに多く上がりました。また、この論争をきっかけとして、国会前でのアピール活動も行われました。

◆2017年:YouTuber炎上、#MeToo 運動

人気YouTuberのスキャンダルや疑惑などが話題になりました。人気YouTuberはもはや"一般人"というより、芸能人と同じくらいに注目を集める存在だと実感する出来事です。

また、#MeToo 運動が始まり、日本でもやや広がりを見せ始めました。#MeToo 運動とは、様々な要因によって性暴力やセクハラの加害者を告発できなかった被害者が、連帯して告発しようというムーヴメントです。

#MeToo #TimesUp は、インターネットを使った運動・ムーヴメントなので、"炎上"ではありませんが、「インターネットを通し」「多くの人が声を上げ」「世論に影響を与えた」出来事です。多くの人がジェンダー問題について考えるきっかけになりました。特に「社会をよくするためには声を上げるべき」という気づきを与えたことは、以後のSNSトレンドに確実に影響を及ぼしています。

2016年の「保育園落ちた日本死ね」をきっかけに保育や子育て問題が炎上しやすくなったように、2017年の#MeToo運動をきっかけに、ジェンダー問題は炎上しやすくなります。

議論型炎上が起こりやすい話題とは、すなわち世間の関心が高いトピックなのです。

◆2018年-2019年:企業や団体に対する告発・苦言

ここ最近、特に注目が集まっているのが「パワハラ」などの職場問題「ジェンダー」の問題です。これらは個人というより、社会的な問題であるため、炎上の対象になるのは企業や団体であることが多いです。

組織における「パワハラ」に対しては、パワハラによる自殺のニュースが報じられたことで関心が高まり、「働き方改革」推進の流れもあって関心が高まっています。今や「パワハラは問題であり、解消しなければならない」というのが一般常識になりました。

そんな気風の中で、スポーツ界におけるパワハラは大きな注目を集めました。2018年に起こった、大学アメフトでの危険な反則タックル事件を皮切りに、スポーツ界でパワハラが横行している事例が、次々に明らかになりました。「スポーツ指導者が強権的・威圧的な態度で選手を指導する」ことは、時代錯誤であり問題だとして、厳しい非難の声が上がったのです。

また #MeToo 運動の影響もあり、「ジェンダー」問題への関心が高まりました。 #MeToo のムーヴメントの影響もあり、多くの人がフェミニズムの問題に関心を持ち、また「声を上げることが重要だ」と考えるようになりました。ジェンダー炎上には大きく分けて3パターンあります

① 古いジェンダー観に気づかずに広告を展開したために、指摘されて炎上するケース。
② 性的なコンテンツを、しばしば誰もが見るような場所で展開し、セクハラと感じさせてしまうケース
③ ジェンダーをテーマにした広告を展開したが、逆に批判されてしまうケース

①には、「家事と育児は女性がやるもの」や「働く人=男性」と描く事で、そのジェンダー意識が指摘される広告が当てはまります。

②は、例えば胸部を強調して描かれ、人によっては「性的である」と感じられるようなイラストを公共の場に掲載する広告に載せてしまうケースなどが当てはまります。

③は、ジェンダー問題への関心の高まりに応じて、問題提起するような広告を展開したものの、tyぽっと見通しが甘かった場合に起こります。言いたいことがうまく伝わっていなかったり、論点がズレていたりすると、違和感を言語化しようとしてたくさんの意見が寄せられてしまうのです。それをきっかけに、議論型炎上に発展するパターンがしばしばあります。

ジェンダー問題はパワハラ問題ほど議論がされてこなかった分野なので、意見が分かれやすいことが炎上しやすい原因になっています。「解消すべき問題だ」と考える人と、「大した問題ではない」と考える人がいるため、衝突が発生し議論が過熱しやすい傾向にあります。

◆今年(2020年)

今年もトレンドの話題に関連した炎上が注目を集めました。

3月~5月を中心に、新型コロナウィルスに関連する炎上が発生しました。一つは、感染予防意識の低さを過度に批判されるケース。例えば緊急事態宣言下で会食をした著名人が批判される事例が複数発生しました。また新型コロナウィルスに感染した人の個人情報を特定しようという動きが起こり、誤情報も含めて攻撃されるという事例もありました。もう一つは、新型コロナウィルスをきっかけとして、ヘイトスピーチに繋がるケースがありました。

また、引き続き「フェミニズム」への関心が高まっている状況です。

今年下旬には、企業・団体のプロモーション企画が炎上する事例が立て続けに発生しました。6月は、美術館の魅力を伝える目的で行われた「美術館女子」企画が、8月には、生理用品のプロモーションで「生理を“個性”ととらえれば、私たちはもっと生きやすくなる」と銘打った企画が批判を浴びました。また11月には、「タイツを履いて足を強調した女性や少女のイラスト」がタイツのメーカーのプロモーションとして投稿されたことに対し、「不愉快」と批判する声が多数寄せられました。

また広告以外でも、企業の姿勢が問われる炎上事例がありました。ある専門商社が、性別を理由にして就職説明会への申込を一方的にキャンセルしたことがTwitterで話題になり非難されたのです。

いずれの炎上例でも、「企画が、意図しない形で議論の火種となる」という構図が見られます。

また炎上とは少し違いますが、Twitter Japanから発表された「今年最も引用ツイートされたツイート」がこちら。

引用ツイートが最も多いということで、今年最も話題になったツイートと言えるかもしれません。

これを育児に関する問題と受け止めた人もいれば、性差別の問題(マンスプレイニング)と受け止めた人、家事の大変さについての問題と受け止めた人も。いっぽうで「見知らぬ人にそんなことを言うなんて、あるわけがない。この話は嘘では」と考える人もいたようです。立場によって受け止め方が異なる内容は、話題になりやすいことを実感します。

☆2016年~2020年炎上傾向まとめ

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まとめ

炎上といっても様々であり、一方的に批判される炎上もあれば、誹謗中傷に近い炎上もあり、また批判ではなくむしろ論争による炎上もあります。

全体の印象として、かつては「批判集中」による炎上がほとんどだったのに対し、ここ2年ほどで「論争」による炎上の割合が増えてきたと感じます。 #MeToo 運動や#BlackLivesMatter 運動をはじめとする、SNSを使った社会運動が盛んにおこなわれるようになり、「SNSを使って声を上げる」という行動がよく行われるようになりました。

これまでは「炎上しやすい繊細な話題を避ける」ことによって、ある程度炎上リスクを下げられると考えられていました。しかしここ最近の炎上は「無意識の差別」や「問題意識の低さ」を指摘されて炎上するケースが相次いでおり、繊細な話題を避けるだけでは、炎上を防ぎきれなくなっています。

「多発するジェンダー炎上を防ぐには、女性を企画に入れるべき」という意見もありますが、女性だからといってジェンダー意識が高いとも限らず、女性が関わっていた企画で炎上してしまうケースも発生しています。

広報・マーケティングに携わる人間としては、トレンドの話題に関心を持つことが、炎上リスクマネジメントの観点から重要性を増しています。「ジェンダー」「パワハラ」「人種」など、"デリケートな話題"とされてきた各問題に対して、自社がどのようなスタンスを取るのかを定めておくことが、今後の炎上対策には必須になるでしょう。

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