ドラマカルテットを見て

カルテットは音楽が好きで音楽で生計を立てることにあこがれているけれど現実にできない30代4人の男女の恋愛と、夢の行き場を描いたドラマ。

最初はあまり面白くなくて途中で見るのをやめてしまったのだけど、しばらくして思い出してなんとなく続きから見始めたら面白くて4話から最終話まで一気に見てしまった。

忘れられないのが6話。数十分間にわたる松たか子さん演じるマキさんと宮藤官九郎さん演じるミキオさんの出会いから結婚、ミキオさんの失踪までの描写。

二人の心がずっと違う方向を見ていて、ずっとすれ違っていて苦しかった。マキさんはミキオさんを想っていて、ミキオさんもマキさんを想っているのに両想いじゃない。片想いをしあっている。

マキさんの代わりにミキオさんに謝りたくなって、ミキオさんの代わりにマキさんに謝りたくなった。愛があっても想い合っていても相手は傷ついて心が離れて苦しくなっていく。

江國香織さんの小説みたいだと思った。そのすれ違い方の具合が。

人には欲しいものがあって、それが手に入らなければ愛があっても傷つくし苦しい。

マキさんが欲しかったのは家族でミキオさんが欲しかったのは恋人みたいな関係。

やっぱり恋愛は相手の望みを叶えられなければならないんだと思った。恐ろしくてとてもとても私にはできないと思った。誰の期待にも応えられないし、誰の望みも叶えられない。

自分の望みを叶えることをやめて望むこともやめて、ただ相手の望みを叶えることだけに愚直に徹しないとできないような気がする。


マキさんとミキオさんはお互いのことをお互いが想って別々の理由で離婚する。コンビニ強盗してしまったミキオさんはマキさんに迷惑をかけないように。マキさんは自分を好きじゃないミキオさんが苦しくないように。

二人で離婚届を出して、二人で警察署に出頭する。ミキオさんは一人で建物の入り口に向かって歩き出す。そしてミキオさんは振り返って両腕を広げる。私は泣いたけれど、マキさんはミキオさんのところにはいかなかった。

ミキオさんは腕を下ろして警察署に入っていった。

東京事変の化粧直しの「言葉が宙に舞って枯れたとき やっと私は気づいた 本当にひとり」っていう歌詞みたい。

ミキオさんの気持ちは宙に舞って枯れた。マキさんが受け取らなかったから。

ミキオさんはマキさんと暮らしているときに、自分の言葉や気持ちが何度も宙に舞って枯れたのを見ていた。

マキさんはミキオさんが居酒屋で後輩に「奥さんのことは愛しているけど好きじゃない」と話しているのを聞いてしまって「私はずっと片想いをしていたんだ」と思った。

片想いをしあっている二人。

片想いをしあっているのが恋愛で、夫婦で、人と人なんじゃないかと思う。人にはそれしかできないのかもしれない。


恋人がいる人も結婚している人もすごい。すれ違いあいと幸福と痛みと自己嫌悪といろいろな感情でぐちゃぐちゃになったままそれに耐えて生きている。

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