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メモランダムNo.136 (罫線以下は内容に触れた感想)

リーディングアクト メモランダムNo.136
2023年12月17日(日)~12月24日(日)
紀伊国屋ホール

朗読劇ではなくリーディングアクトという形での上演でしたが、うけた印象としては「アクト(リーディング)」という感じでした。
舞台はフランスのあるアパートの一室。
アパートのセットと小道具があり、衣装を着て、メイクをした演者が二人。
事前の情報は、公式のHPと12月10日の25時過ぎに放送された「プレミアの巣窟」内でのコメントやジャン=ジャック役の瀧澤さんの「見た後ではコーヒーの味が変わる」という謎かけのみ。

私はこうしてnoteを書く時、まずはPCの大きな画面に向かいひたすらに思いついたことを脈略もなくばーっとタイピングしていきます。そしてそれはとても直観的な作業なんです。そのあと、自分のiPhoneで添削、というよりほとんど編集のような文章の構築作業に移り、そしてアップします。アップしたあとにも手直しを加えながら。
この一連の作業が、この公演を観るときにも必要だったなと思いました。
つまり、このお話はとても直観的で、観劇しながら色んな推察をしてみるのですが、終わりまで見たときにすっきりと答え合わせできるようなものではなく、そのあとから色々と作品に、役者に思いを巡らせてようやく作品全体への印象や感想が構築されるという感じなのです。
もしこの作品を本当に理解したいと思うなら、二度以上、そして演者の組み合わせを替えて観ることをお勧めします。

この公演のタイトルは「メモランダムNo.136」。原作はメモ書きみたいな恋のやりとりをぎゅっと詰め込んだコメディに分類されるお話のようです。
観劇後に感じたのはフランス映画を観たときのような、ある男が魅惑的な女によって幸福を得て、すべて失い、そして本質的に自由になれたのだ、というような感覚でした。

マイクのない舞台で、佐奈さんと綾さん二人とも口跡良くとても聞きやすい、そして表情のある声でした。
あやなちゃんは、ピンクのAラインのコートに黄色のタイツ。部屋では深い赤のミニドレス(アメリカンスリーブ)に同丈の白い長袖カーディガン、黒のシンプルなパンプス。ルームシューズは黄色のバレエタイプ。大きな黒いリボンはドヌーヴのようだったけれど、ミニドレスに細くて長い脚と腕、少し無造作にもみえる前髪にジェーンバーキンをも彷彿とさせました。



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ここから先は大いにネタバレを含んだ、一度しか観劇できない、なのに何も調べてもいない、無垢な感想です。

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ジャン=ジャック:佐奈宏紀
スザンヌ:綾凰華

出勤前に自分の為にコーヒーを淹れるジャン=ジャックのアパートに、大理石の階段を大きなスーツケースを抱えて上がってきたスザンヌがその開いたままのドアから部屋にあがりこみ「フェランさんはどこかしら」と荷物を置いて勝手にくつろぎ始めるところからはじまります。
観客は、この女は何者?と考えながら、ある種、ジャン=ジャックの目線で物語を観進めていくことになります。

どうにか自分の居場所がほしいスザンヌと、自分の家(居場所、主義)を護りたいジャン=ジャック。
朝と夕、二度の口論の末、なかば憔悴しきってスザンヌを一人部屋に残し、出掛けるジャン。
まんまとそのままひとり朝を迎え居場所を確保できたスザンヌ。
翌朝帰ってきたジャン=ジャックは人が変わったように、従順にスザンヌにコーヒーを淹れ、ようやく落ち着いて会話をしていくのだけど。
ベッドに座ってジャン=ジャックの話に耳を傾けるというより身体全体で向き合おうとするスザンヌと、椅子に掛けたりふらふら歩いたりしながら自分のことを話すジャン=ジャック。
このときの綾さんがジャン=ジャックの話を聞きながら本当に良い目をしていて。今、このとき恋しはじめているんだな、って。ああもうほんとに。話に興味を持っているけど、そこから、なにか違うことを考えたり、あるいは想像を働かせてもっと素敵なことを考えているような。恋に恋してるような、そんな表情、瞳をしていて。
一方でジャン=ジャックはまだ想いに鈍感で、ただただ自分で築いた安心できる場所が今意図せず変化しようとしていることにもがいている様子が、この人は恋に溺れちゃうタイプなんだろうなと思わずにはいられなかったです。

女とは自分の勲章のようにただ番号を振ってメモを取る対象でしか無かったはずのジャン=ジャックはスザンヌのことで頭がいっぱいになり始め、仕事中ランチを早めに終わらせると部屋へ戻ってきてみたり、帰りには花束とシャンパンを持って帰ってきてみたりと完全に溺れはじめてました。
余談ですが、シャンパングラスを持つ綾さんの指はそれはそれは優美で、スザンヌこそ百戦錬磨だろうなと思ったし、一方で佐奈さんはふわっとした手をしていて、そしてなんだかぎこちない感じが不器用で本当は自分に自信がないジャン=ジャックそのものなんだろうなと思いました。

ジャン=ジャックの136番目の女になることは簡単なのに、番号以外の特別な自分だけの居場所を求めているかのように振る舞うスザンヌ。

女の名前と身長などを記したメモの話をしていくうちに自分の内面をなんでも委ね話してしまうジャン=ジャックとは対照的に、スザンヌにはまるで自分をもっと知ってもらいたいという欲なんかなく、私はあなたの求めてる何者にだってなれるのよとまるで夢を見るような瞳で(それはもう表情や声だけでなく台詞間や抑揚も魅力的に)、30年間奔放に生きてきた女にでも、何も知らない乙女にでも、あなたの前ではあなたの望むままに成ってみせるといい、そしてそれが彼の求めたそのものだと思わせてしまうのだからジャン=ジャックには勝ち目なんか無かったです。
それでいて自分のことは「今ここにあなたが居て私が居る」それ以外に何が必要かと問うスザンヌ。
とてもフランス人らしい台詞だなと思いました。

恋に落ちたジャン=ジャックは名前を聞かれ「僕はフェラン」と答えます。つまるところ、僕は君の追い求めていた理想の男だよ、というところなんだろうなと。

恋に落ちるまでは、私はホテルなんかに住みたくないし私は場所を取らないから狭くてもこの部屋に居ても大丈夫よと言っていたのに、広い部屋を借りて一緒に住もうと提案されれば、それじゃ結婚みたいなものじゃないのと戸惑い、じゃあ結婚しようと言われれば、結婚は嫌よ私は向いてないのと返答する。

スザンヌしか見えなくなって、仕事も何もかも放り出してしまったジャン=ジャック。
押し問答のあとお互いが別離する事に納得し、最後のコーヒーを飲み4日間の熱烈な恋はジャン=ジャックがアパートをスザンヌに譲ることで終結します。


女とはああしろこうしろと言うくせにそれをそのとおりやってやると、それは望むものとは違ったと自分から離れていく。それでいて傷ついた様子をして去っていくのだから敵わない。
それを普遍的な愛の物語と銘打って、少しミステリアスな雰囲気をまとわせながら展開していくお話しでした。
途中、これはジャン=ジャックもしくはスザンヌどちらかの精神世界での対話で架空の物語なのかとも想像しながら観ました。
公式HPのあらすじを改めて読んで、やっぱりこれは恋のメモランダムなんだと自分の中で解決したのでこの感想に落ち着きました。
五戸さんの意図したところがとても気になるし、演者さんそれぞれのそれが凄く知りたい。

台本は持ってはいたけど、ほとんどアクトでした。もしこの制約がなければもう少しジャン=ジャックの心理描写、とくに最初の場面での口論での心の機微が緻密に表現され、わかりやすかったのかもしれないと思いました。

まぁ、そんな簡単にわからないのが異性の心理ということでしょうか。
それを言っちゃおしまい。
おあとがよろしいようで。

やっぱり二回は観たかったなぁ。。

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