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冷えた缶コーヒー

「こんなこと続けて意味なんてあるのかな。」
満月の夜、二人で歩いて、温かい缶コーヒーを持ちながら話していたら彼が突然こんなことを言ってきた。

「え、なに突然」
彼の言葉に心臓が切り刻まれたような痛みを感じたがそれを表に出さないように笑って応える。

「君を好きって気持ちはある。安心もする。だけど、ぶつかってばかりでその度に泣くじゃん。」
「泣くじゃん、ってなに。私だって好きで泣いてるんじゃない。貴方が」
「ほら今だって。」
言葉が詰まる。もう既に泣きそうだ。
こんな話をしようと思って出掛けたんじゃない。
綺麗な満月だから、二人で一緒に真夜中の道を歩きたかっただけなんだ。

「俺と居て、そんなに泣かせてしまうなら俺らの関係このままじゃ駄目なんじゃないか。」
「なんで…。なんで平気そうなのよ……。」
いつも通りの様子で話す彼と、感情が波のように押し寄せてくる私。そんな対照的な感情に更に涙が溢れてくる。

「別に平気じゃないよ。」
「平気そうじゃない…!」
「君が泣くから泣かないだけ。」
「なにそれ…どういう意味……?」
「どういう意味だろうね。」

わかんない。
泣けば良いのに。二人してみっともなくても、泣いて、感情をぶつけ合って、そしてまたいつも通りに戻れば良いのに。
なんで私だけ。

「…好きなんでしょ?」
震えた声で彼に訊く。しんとした空気の中私の嗚咽と、鼻を啜る音が鮮明に聞こえる。
「好きだよ。」
優しい声で彼は答える。
「じゃあ。このままでも良いじゃない。このまま……。私も、好きだし。なんの問題もないじゃない……!」
俯きながら声を荒げる。
ぽつぽつと雫が落ちる。いっそ、雨でも降ってくれたらこの痕を塗り重ねてくれるのに。
だけど、ドラマみたいにそんな都合よく雨は降ってくれなかった。

「問題はあるよ。俺は君を泣かせてしまうから。」
「そんなの関係ない!ぶつかって、お互い話し合って、解決して。妥協して。そういうのが恋人なんじゃないの…?!」
「その度に泣かせるのは、胸が苦しくなるよ。」
「そんなの知らない!」
感情が止まらない。
彼の言葉の全てに反抗してしまう。
「私は君が好き!君も私が好き!!
それで良いじゃん……。それじゃ駄目なの……?」
縋るように彼のシャツに手をかける。
ぐしゃっと握られたシャツを気にせず、私を抱きしめるでも撫でるでもなくただ彼は真っ直ぐに立っていた。

「それじゃ駄目なんだ。」
「…私が泣かなければ良いの……?」
彼の顔を見る。もう顔面は涙でぐしゃぐしゃになっている。そして彼は私を見ながら答えた。
「そうじゃない。」
「じゃあ、なに?!」
「もう。遅いんだよ。」
「最初と言ってること違うじゃない。君は最初、『意味なんてあるのかな』って言った。それはまだこのまま付き合える可能性があるってことでしょ…!それなのに、『もう遅い』ってなに…。」
「ごめん。」
「ごめんじゃないよ……。嘘つき。」
「うん。嘘つきだね、ごめん。」
「ごめんじゃないって。」
「うん。ごめん。」
「…っ!もういいっ…!!」
初めから彼の中で答えは決まっていたんだと思う。
それならなんで相談してくれないの。二人の話じゃん。勝手に進めないでよ、ばか。

涙を拭い、前を向く。
「私のこと、嫌いになった…?」
「なってない。」
「そこは、なってよ……。」
好きな気持ち、そしてまた涙が溢れてくる。もういっそ、嫌いって言ってくれた方が良かった。
「君は残酷だね……。」
「そうかもしれない。ごめん。」
「そのごめんは受け取っとく。」
「うん。ありがとう。」
「それじゃあ、とりあえず帰ろうか。
今日からさよならするにしても泊まる家ないだろうし今日だけ。明日にはさよならするから。さよなら出来るように頑張るから……。」
「うん…。ありがとう。帰ろう。」

初めに歩いた時とは違う、二人の距離が少し遠い。
そして、温かかった缶コーヒーはもう冷えていた。



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memoです。
この二人を書いていたら、部屋の電気が消えて
今真っ暗な暗闇の中、ブルーライトを浴びながら書いています。
目がやばいです。

おやすみなさいと言ったのですが嘘でした。
嘘つきは私もでした。
これで本当に寝ることにします。
おやすみなさい。


素敵なお写真をお借りしました。
ありがとうございました。

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