18年経って

BUMP OF CHICKENの「スノースマイル」という曲が好きだ。


発表された時は中学生だった。当時はよく分からず聴いていた。恋愛もした事がなく、ただ明るい曲だけが好きだったので、なんだかつまらないなと思って聴いていたのだった。歌詞にある、恋人のポケットに手を入れて歩くような光景に憧れつつも自分にそんな日は来ないと思っていた。

それから高校生になり大学生になり、私は違うジャンルの音楽に没頭する事になって、しばらくこの曲の事は忘れていた。

社会人になり、初めて恋人と呼べる人ができた。そして冬が来て、この曲を思い出した。私は恋人のコートのポケットにそっと手を入れた。カイロが入っていて暖かかった。見上げると元々モデルだった経歴もある、彼の端正な横顔があった。完璧だった。あの時の子供っぽくて何も期待していないフリをしていた自分に見せてあげたいと思ったのだった。最後まで聴くとこの曲は失恋の曲なのだけれど、私は幸せな冒頭の部分をどうしても再現したかったようだ。

そして、私は満足し、この曲は消化できたのだと思った。それに伴ってスノースマイルはまたしばらく記憶の奥深くに沈んでいった。

彼とは5年後に酷い別れ方をして、吹っ切れた私はその1年後には結婚し、さらにその1年後には息子を育てる事になり、今に至る。

そして今日、この曲がまた浮かんできたのだった。それは息子を散歩させている時だった。

息子はまだ1歳半。半年前に歩けるようになったばかりだ。靴に重心をかけるのがまだ未熟で、トテトテという足音と共に歩く。小さな段差に引っかかっては転び、よそ見をしては転ぶ。そして、落ち葉に足を取られそうになるのをハラハラして見守っていた時、私はスノースマイルの「恋人」の立場から「主人公」の立場になった事を知ったのだった。

そうだ、そうすると曲の終わりまで繋がる。よく息子はママの恋人なんて言うけれど、それは別れが約束されたものなのだ。いずれは巣立つ。冬に息子の居ない道を歩く時、またこの曲を思い出すだろうか。

そしたら、今度は夫のコートのポケットにそっと手を入れよう。


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