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アーセナル 優勝という栄光に向けて

復活のガナーズ

 今季のプレミアリーグは、若いスカッドでアーセナルが躍進を見せています。アルテタ監督の手腕と選手一人一人の技術の高さは見ている人を楽しませていると思います。
では、なぜ長年優勝から遠ざかっていたアーセナルが、今季の覇者になろうとしているのか、そこを深掘っていきたいと思います。

アルテタの手腕

 アルテタは低迷していたエメリ監督の跡を継いで2019年に就任しました。ここ最近のアーセナルは03-04シーズンの無敗優勝を最後にリーグタイトルから遠ざかっていました。ヴェンゲル解任後、エメリ監督に浮上の期待を寄せるも、結果は低迷。一年での解任に踏み切り、ペップ率いるマンチェスターシティでコーチを務めていたアルテタに白羽の矢が立ちました。まだ若いアルテタには疑問が多く寄せられました。そんなサポーターの予感は的中し、19-20シーズンと20-21シーズンは8位に終わりました。解任を求める声も多くなってきたなか、21-22シーズンは開幕三連敗と出だし躓き、いよいよアルテタも終わりかと思われましたが、救世主がアルテタを救いました。冨安とラムズデールです。二人はアーセナルの守備ラインを革新的に変え、若い選手中心にシーズンを戦ってCL権を争い、最終的に5位フィニッシュでアルテタ続投の正しさを示しました。満を持して今季は現時点で2位と勝ち点5ポイント差の首位を走っています。
 アルテタはこの4シーズンで何を変えたのでしょうか。まずはやはり現代的なポゼッションスタイルへの転換でしょう。アルテタはペップの元でコーチをやっていたこともあり、4-3-3をベースにした現代フットボールに見られる縦に早いポゼッションスタイルを用います。今季は夏にジェズスとジンチェンコを獲得し、アルテタサッカー完成の年になりました。印象的なのは、ジンチェンコの偽サイドバックの動きです。ビルドアップ時にジンチェンコが中盤の位置まで絞り、パスを捌きます。サイドバックとポジションが被らないことで左ウイングのマルチネッリのプレーにある程度自由が生まれ、前線の選手や中盤の選手の攻撃参加を積極的にし、得点力が高まっています。特に驚きがあったのは、MFジャカの劇的なプレースタイルの変化です。攻撃参加時にサイドバックが中に絞ることでジャカが縦のラインに顔を出し積極的なプレーが多く見られるようになりました。
 また、スペースを広く使うのもアルテタサッカーの特徴で、中盤やサイドバックがピッチの様々なところに顔を出し、中盤のウーデゴールがフィニッシュに多く関わったり、ウイングのカットインやクロス、サイドチェンジなど幅広くピッチを使うことで相手チームの守備の穴をつくことができます。今季は得点ランキング5位にマルチネッリ、同率7位にサカ、同率10位にウーデゴールなどセンターフォワード以外の選手が得点を重ねているほか、アシストランキング2位にサカ、4位にウーデゴールなど、得点とアシストを兼ね備えた選手もいます。これが今のアルテタサッカーの良さを象徴していると思います。センターフォワードの選手の得点が見られないのは少し寂しいところではありますが、それでもピッチの使い方が上手いからこそ、ウイングや中盤の選手の良さが出ていると思います。
 アルテタサッカーの最大の強みと言っていいのが、スカッドの若さです。アルテタは若手を見出すのが非常に上手く、ジンチェンコとジェズスはシティ時代からの愛弟子ですし、マルチネッリやサカの活躍もアルテタ就任後です。まだ欧州では無名に近かった富安を見つけてプレミア屈指のサイドバックに育てたり、ラムズデールはカタールワールドカップのイングランド代表に選ばれるまでになりました。今季からはリーグ1にレンタル武者修行に出ていたサリバを買い戻し、そのプレー強度と足元のうまさでグーナーを一瞬で魅了しました。サリバはアーセナルに対し昨シーズンレンタルで所属していたマルセイユへ買取オプションを認めることを求めていたようですが、アルテタはサリバをプレシーズンから重用し、開幕で富安が出遅れたことも影響して完全にポジションを獲得しました。サリバは間違いなく今季の躍進の一端を担っています。また若手を多く起用することによってアジリティの面でも他のクラブより良いものを持っていると思います。攻撃時の縦の展開の速さもそうですが、ボールロスト時のネガティブトランジションも速いので、ハイラインを敷いていても相手フォワードに負けないスピードを持ったCBがいますし、集中力や疲労の面を考えないとすれば、プレミアでも5本の指に入るスピーディーでテクニカルかつパワフルなサッカーをしていると思います。

情熱と人望

 アルテタは非常に熱い監督でもあります。アーセナルが得点した時はサポーターと共に全力で喜び、試合後は選手を労います。今季特に印象的だったのは、トッテナムとのダービー後にジャカが相手選手と衝突しそうになった際にジャカのところまで走って行ってなだめていました。シティのペップはインタビューで、シティのコーチ時は得点すると感情を爆発させるが、アーセナル戦での得点は喜ばなかったと語るなどアーセナルへの愛も強い監督です。
 また選手からの人望もかなり厚いです。2019年にキャプテンとしての振る舞いやプレーの荒さからファンとの衝突もあり退団が確実視されていたジャカですが、彼の残留はアルテタ無くしてありません。ジャカはインタビューにてこう語っています。
「ミケル・アルテタ監督のおかげで僕は今もアーセナルに所属している。彼は僕と話がしたいと言ったので、僕は彼に『あなたとは関係ない。僕は出て行く。もうユニフォームを着ることはない』と説明したんだ。彼とは一緒にプレーしたこともないし、名前を知っているだけで人間性については知らなかったからね」
「そしたら彼は『6カ月間チャンスをくれ。6カ月経っても満足できないようだったら、その時は私が君を助ける。逃げてほしくはないが、君はここを去ることができる』と言った。家族にも話さなかったし、普通はそんなことしないんだけどね。僕は『OK、ミケル。あなたのためにここにいるよ』と言ったんだ。そして今もここにいいる」

アルテタがこの時引き止めてくれたおかげで今季の好調アーセナルの中盤が成り立っていると思います。キャプテンはウーデゴールですが、試合で得点を決めた際には、ジャカがチームメイトを集めて円陣を組み、興奮する選手を落ち着かせる役割を担うなど、2019年のジャカとはまるで違い、スタメン最年長としてのリーダーシップを発揮してくれていますし、プレーの面でも今までのような荒さが目立たなくなり、攻撃にも積極的に参加するようになりました。アルテタがジャカに寄せた信頼が結果的にジャカからの信頼を勝ち取りました。


ポジティブな選手たち

 前述の通りアーセナルには若い選手が多いですが、それぞれがポジティブな感情を持ち、お互いをフォローし合えていることは、経験値の浅い若いスカッドでプレミアを戦い抜けている要因だと思います。ラムズデールはキーパーとしてピッチの最後方からチームを鼓舞し、キャプテンのウーデゴールは熱いプレーで選手だけでなくサポーターにも勇気を与えます。
 今回はサッカーキングさんの記事を引用させていただいて、選手の声を紹介していきたいと思います。
ラムズデール
「間違いなく、反対側(残留争い)の時よりも遥かに良いプレッシャーだよ」
「僕たちはそのプレッシャーを楽しんでいる。でも、この場所に来たことがない選手がほとんどだから、どう対処すれば良いのかわからないのも事実だよ。だからこそ、自分たちが10位や12位のチームになったつもりで試合に臨み、チームメイトと共にできるだけ多くの試合に勝とうとしているんだ。すべての試合に勝ちたいと思っているけど、現時点ではそれがすべてではない。もちろん、残り4、5試合になった時に今と同じ位置にいたら、間違いなく変わると思う。だけど、今は仲間と共にプレーするのを楽しんでいるんだ」

冨安
「世界有数のビッグクラブでは常に競争があります。今はベン・ホワイトが非常に良いプレーをしているので、僕には我慢が必要です。プレーする時にはチームに全てを捧げるつもりですし、そのための準備をしておく必要がありますね」
「僕たちは若いチームで、まるで家族の一員になったかのように感じています。マンチェスター・Cとの試合では僕のミスで先制点を与えてしまいましたが、その直後にチームのみんなが僕のところへ来て『顔を上げろ』と励ましてくれました。みんなが助けてくれたんです。ミスから学び、立ち直り、ポジティブになる必要がありましたが、その時も彼らは僕を助けてくれました」
「サポーターは素晴らしいし、いつもたくさんのエネルギーを与えてくれます。彼らは最高です! 雰囲気は昨シーズンより良くなっています。特に失点した直後の観客の盛り上がりは素晴らしいと感じています。普通は失点すると観客は落ち込んでしまいますが、『エミレーツ・スタジアム』はその真逆です」

ラムズデールや冨安の話から分かるようにお互いに信頼し、仲間として力強く戦っているのがわかります。
 また、2月25日のレスター戦ではジンチェンコがキャプテンマークを巻きましたが、これを提案したのはウーデゴールだそう。ウクライナのロシアによる軍事侵攻を受けてサポートを示すための行動でしたが、これが選手主導で行えるのが素晴らしいなと思います。ウーデゴールは試合後のインタビューで、「彼(ジンチェンコ)にサポートの気持ちを伝えるために良いことだと思ったんだ。あれからもう1年になる。長すぎるし、彼にとっては非常に難しい状況だと思う。とても感情的になっていることも知っている。試合の当日、彼にやっても良いかどうかを聞いたんだ。ピッチに立てば、彼はいつも100パーセント集中している。彼のプレーに影響が与えられているようには見えないけど、彼やその家族、そしてウクライナのすべての人々にとって難しい状況であることに変わりはない。僕たちはただ、彼にサポートを示したかっただけなんだ」と語っています。

最後に

 今回はアーセナル躍進について深掘りしていきました。この記事を通じて少しでもプレミアリーグやアーセナルに興味を持ってくれたら嬉しいなと思います。グーナーとしての贔屓目も多少ありますが、今回記事にしたようにアーセナルはとても魅力的で素晴らしいクラブです。ワールドクラスの選手がたくさん所属していますし、今季優勝の喜びを味わえるかもしれないという点では、今からでも遅くはないと思うので、Abemaなどで試合を見てみていただけると、記事を書いている身としては嬉しいなと思います。





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