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うんこを漏らした

完全に油断をしていた。

これは屁だろう。そう確信しきっていた。

自宅のベッドの上にいたことも、油断には一役買っていたかもしれない。

兎角、私は完全に放屁のモードだった。

そして肛門から出してみたらば、うんこだった。


うんこであることにはすぐに気づいた。

「いま出てきたのは、感覚的に、ガスじゃない」。

私は急いでトイレに駆け込んだ。


ケツからは、軟便が絶えず出た。

パンツを見ると、「ああ、漏らしたな」という痕跡があった。

便が止まったところで、ケツを拭き、トイレを出た。


パンツは、洗えばそれでよかった。

穴が空いたわけじゃない。

もう二度とはけないわけじゃない。

しかし、うんこを漏らしたイメージが残ったパンツをはくのは御免だったので、そのままゴミ袋に詰めた。

当然、そのパンツが、ゴミ袋の越しとはいえ、ずっと家の中にあるのは気分の良いものではなかったので、直近で捨てたいものもそのゴミ袋にあらかた詰めて、即座にマンションのゴミ捨て場まで持っていった。

その途中、強い腹痛を感じたので、ゴミを捨てたあとは逃げ帰るように部屋に戻り、すぐさまトイレに駆け込んだ。

危うく、はき替えたばかりのパンツにもうんこを漏らすところだった。


この腹痛はなんだ?

どうした?

消費期限の切れたものを食べた覚えはない。

腹が冷えるようなことをした覚えもない。

しかし、続けざまの軟便は、何らかの異常事態の到来を告げていた。


どうしたものだろう、と考えていると、腹が鳴った。

その日は、朝にレーズンパンを一つ食べただけで、それ以降なにも食べていなかった。

自宅に食料の備蓄もなかったので、マクドナルドでテイクアウトすることに決めた。


マクドナルトのある建物に入るとまた腹が痛くなり、トイレに駆け込んだ。

今思えばハンバーガーやポテトフライのような、あからさまに消化に悪そうなものを食べられる体調ではなかったのだが、その日の私は、うんこを漏らしたという事実から冷静さを失っていた。

大便器に跨ったまま、私はスマホでマクドナルドのアプリを起動した。


とあるメニューを選択し、受取店舗を選択する。

すると、選んだメニューは、その店舗では取り扱いがないと表示された。

なんという仕打ちだ。こちとら、うんこを漏らしているのだ。

しかし、そんな叫びをあげたところでどうしようもない。

そもそも、そんなこと、声を大にして言うべきことではない。

仕方無しに別のメニューを選び、モバイルオーダーをした。

そして、当該の品を受け取り、自宅に戻った。


久方ぶりのマックのポテトは、健康に悪い味がして最高に美味しかった。

ハンバーガーも、健康に悪い味がして、本当に美味しかった。

ああ、お腹が満たされた、と感じ、最高に幸福だった。


無論、このあとまた腹痛に襲われたことは言うまでもない。

むしろ腹痛は、先程より強さを増していた。

それは明らかに、そのコンディションでマクドナルドという油分の多い食べ物を口にしたからだった。


腹が痛むたび、「うんこを漏らす」ことが私の脳裏をよぎった。

その甲斐あって油断することなくトイレに行けたので、実際に漏らすことはなかったが、一瞬でも脳裏をよぎるのは、とても心臓に悪かった。

私はこれにて身を以て知ることとなった。

うんこを漏らすとは、こういうことなのか、と――。


春。寒暖差も激しく、また新生活の忙しさも相まって体調を崩しやすい季節である。

読者諸賢においては、どうか体調を崩されないよう、そしてうんこを漏らさないよう、ご注意願いたい。

本音は漏れても、うんこだけは漏らしてはいけない。


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