③彼女の事3/3
彼女のことを思う。
あの子はいつも哀しげで泣いている時のほうが多かったけれども、調子のいいときはおひさまみたいに明るくって、アイスクリームみたいにキュートな声でピチカートをくちづさむバイオリンみたいな女の子だった。
彼女の事を思う時僕の胸は張り裂けるように痛む、それは生きていることが不思議になるくらいの致命的な痛みだ
それでもボクはすがるような思いで何度も何度も思い出が擦り切れるまで、在りし日の彼女の事を思い出し続ける
普段。彼女はとてもよく泣く女の子で突然僕のわからない理由で発作みたいに泣きだすこともしばしばあって最初僕はそれにとても困惑していた。だけどいつからだろうか。繰り返される彼女との日々の中で泣いている彼女の傍で彼女が落ち着くまで辛抱強く待ち続けることに慣れていった。
「ねぇ、そんなに泣かなくても大丈夫だよ?何も恐いことなんてないんだよ?」
バカみたいに何回も彼女の肩を抱きくりかえした言葉
「ごめんね、あたし泣いてばっかりだね。やだなー。なんでなんだろう」
そう言ってそれが悲しくってまた泣いてしまうような
彼女はそんな女の子だった。
彼女の胸の内には目に見えることはないとても大きな傷が、彼女のしろく細い腕には彼女が自分でつけたたくさんの傷が。
彼女は決して自分から誰かに助けを求めるような子ではなかったし、むしろ自分の弱さをどうにかして隠そうとするような女の子だったけど、どんなに意地をはろうと彼女はどう考えたって助けを必要としていたし、なにより僕はどうにかして彼女の助けになりたいと思っていて。
だから、だから、すべてがうまく行くんじゃないか。
なんて、その当時の僕は簡単に考えていたのだけれど。
「君はさ私のことを好きだって思い込んでるだけだよ」
彼女は僕に何度もそうくりかえした
なんで?
「だって君はあたしのことをよく知らないじゃない」
僕が君を好きだと迷惑?
「そんなことない。好きだって言われて嬉しくないわけないじゃん。どんなお薬を飲むよりも君が傍にいて声をかけてくれると落ち着くし、君が励ましてくれたり、下らない冗談で笑わそうとしてくれから私はなんとかやっていけてるんだよ。たぶん君がいなくなったら私は生きていけない。
だけどね私は君に何もしてあげられないじゃん。私といると君は不幸になる気がする」
僕の一番の幸せは君の傍にいられることなんだけどね。もしそれが叶うんなら他の幸せは全部放棄してもかまわないんだよ。僕は。
「なんでそーゆーこと言うの?」
だって本当にそーなんだよ
「君はさあたしに何かを重ねあわしてそれを好きだって勘違いしてるだけだよ」
難しいことはわかんないけどね
「きっとそうだよ」
うん。だけど僕は君のことが好きだよ。あるいは君が言うようにそれが勘違いだったとしても僕は本当に本当に君の事が大好きなんだ。それが勘違いでも思い込みでも僕が君を好きだってゆう気持ちはどうしようもないんだよ。たぶん。
「君は何であたしなんかが好き…だって思い込んでるんだろうね」
君が可愛いからじゃないかな。
「可愛くないじゃん」
可愛いよ。君は世界一可愛い。
「可愛くない」
じゃあ宇宙一可愛い
「もぉ、いい」
ほら、私は世界一可愛い女の子です。って言ってごらん。
「なんでだよ」
ねぇ、愛してる。
「……」
愛してるよ
「……」
アイシテルー
「……」
顔赤いよ?
「うるさい」
罪悪感
だったんじゃないだろうか。
彼女が僕以外に好きな男がいることを僕は知っていた。自分がこんな状態だから迷惑をかけたくないといって自分から別れた相手を彼女は一年以上ずっと思い続けていた。たとえ彼女が望んだこととはいえこんなに不安定な彼女を一年以上もほっといた男なんてはっきりいって眼中になかった。僕のほうが何倍も何十倍も彼女を愛しているに決まっている。
だけど彼女が本当に望んでいたのは僕じゃなくてその男の助けだ。
「君のことが一番好きだよ」
彼女は最終的にそういったけどそれが本当かどうか確かめるすべはない。
いずれにせよ彼女は僕を置き去りにして独りで逝ってしまったのだから
今でもたまに彼女の夢を見る。
それは彼女がまだ好きだとか愛しいという気持ちが見せるんじゃなくて、結局僕を選ばなくて、僕を一人で置いてけぼりにして憎いとか悔しいって気持ちが見せるのだと思う
夢を見た朝。
彼女が最後の瞬間、絶望のなかで僕の手を離したことを後悔してたんだったらいいのにって。そんなことをよく考える
夢を見た朝。
僕の手を離したことなんてどうだっていいから、もう二度と会えなくたってかまわないから、、僕の知らないところで彼女が幸せに暮らしてくれてるんだったらどんなにかって。
僕はどうすればよかったんだろうか?
僕にはよくわからないんだ
「だからこんなことを?」
君と同じように自分の腕を切れば君の気持ちが少しはわかるかもしれない。って
「君が考えてるみたいに大げさなもんじゃないんだよ。別にこんなの何でもないのに」
嘘だね
「嘘じゃないよ。」
嘘だね
「嘘じゃないってば」
嘘だよ。
何でもないわけないじゃないか!
なんでもないわけないよ。
君の腕は傷だらけじゃないか。
何でもないことでこんなにボロボロになるわけないじゃないか。君はいつも苦しそうじゃないか。いつも泣いてばっかいるじゃん。なんでもないわけない。何でもないとかいうなよ。
「君が泣くようなことじゃないんだよ?」
・・・うるさい
「痛かった?」
痛かったし、それ以上に恐かった。全然おもいきれなくってさ何回もやめようかと思った。情けない話だけどカッターをあてがったら手が自然と震えてきてさ。君がいつもこんな思いをしてるのかと思ったら悲しくなった
「こんなに深く切ることなかったのに」
加減が分からなかったんだ
「こんなことまでするなんて君も相当頭がおかしいね」
君には負けるけどもね
「えへへ、まあね」
誉めてないよ
「…ごめん。ね。」
僕が思うに君は傷ついてるんだと思う。ただその傷は目に見えないものだから君自身もうまく認識できないでいるんだ、だからそーやって自分で自分を傷つけて見えない傷を認識しないといけないんだと思う。君は嫌がるだろうけど、それはSOSで無意識に他の誰かや君自身に助けを求めてるんだとおもう。
「違うよ。全然違う。わかったような事言わないでよ。」
違うかな?
「君にはきっとわかんないよ。私は助かりたいわけじゃない。あなたに助けてほしいなんて望んでない」
そうかもしれない。だけど僕は君を助けたいんだ。君は望まないかもしれないけど僕は君を助けたい。こんな風に言うと君は嫌がるかもしれないけど君は病気なんだよ。君がそうなのは君が悪いわけじゃなくて、誰が悪いわけでもなくて、ちゃんと病院にいってきちんとお薬を服用すれば治るってそれだけの話なんだよ。ちゃんといい先生探してさ、一人で行くのが怖いなら僕が一緒に行ってあげるし、泣いちゃってうまく話せないなら僕が代わりに病状をはなしてもいいし、もちろん時間はかかるし、治るまでは今までどうり辛いだろうけど、辛いときは僕が支えてあげる、僕がずっと傍にいるから。君だってなんとかしたいと思ってるだろ。絶対なんとかなるよ。僕がなんとかするから。だから一緒に頑張ろう?
「君は何でそんなに私に優しいの」
たぶん君のことが好きだからじゃないかな。
「ありがとう。ごめんね」
好きって言っても、まぁ勘違いかもしれないんだけどね。
僕にはわからない。
僕はどうすればよかったんだろうか?
彼女は何にそんなに怯えて何をそんなに恐がっていたんだろうか?
彼女はどうして僕をおいて一人で逝ってしまったんだろうか?
何にもわからない僕にはきっと何一つ出来やしない。
だからせめて僕は祈る。
暗い場所で
今も一人きり彼女が泣いていたりしませんように
どうか
どうか
どうか
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