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馬鹿オムニバス

馬鹿その①

なんでだろーねー
ねぇなんでだと思う?

「何が?」

なんで君はそんなかわいいんだろう?

「は?可愛くねーすけど」

や。かわいーすよ。可憐すわ。

「君はきっと目がおかしいんじゃない?」

花はさ自分の種子をはこぶ鳥や虫達を引きつけるために美しいわけじゃん

「ん?何の話?」

ものごとには理由があるって話し

「ふーん?で?」

僕が思うにね
君がそんなに可愛らしいのはきっと僕に愛されるためなんじゃないかって。

「………」

ね?

「おかしいのは目じゃなくて頭か」

とかいって顔赤いですけど

「うるさい」

愛してるよ

「……バカ」

馬鹿その②

「うわ!吉田どうしたの超目が赤いじゃん」

昨日考え事してたら寝れなくってさ

「考え事?」

木村はさー、
うんこたべたら一千万上げるって言われたらどーする、

「うんこたべたら?」

そう、うんこたべたら。

「俺は食べないかなぁ」

だよね、俺も一千万だったら迷うんだけどさ、もしも一億だったらどうする?一億つったら人生が変わるだけの額だよ。これはまようよね。しかもさ食べるうんこの種類にもよるわけじゃん

「うんこの種類?」

ほら、人間とか犬のはアレだけど兎とか鹿とかの丸いのだったらいけそうじゃない?もし人間の限定だったら、絶対他人のものより自分のものの方が抵抗ないだろうし…

「ちょっと待て、まさかお前一晩ぢゅうそんな事で悩んでたわけ?」

え?まぁ。そうだね。

「徹夜で?」

徹夜で

僕はなんだか疲れてしまい脱力して大きく溜め息を吐く

「よしだ~お前ってほんと馬鹿なぁ」

馬鹿その③

通いなれたいつもの畔道。水平線に浮かぶ真っ赤な夕日が二人の影を長く長く引き伸ばす。

「もうすぐ卒業だね」

あ~なんか言ったー?

あいつはイヤフォンを耳から外してめんどくさそうにこちらを振り向いて見せる

「なんでもなーい」

私が小さく首を振ると、あいつはイヤフォンを耳に戻しまた前を向き直した

「一緒に帰ってんのに一人で音楽なんか聞いてんなよな」

小さな声で一人ごちる。

ゆっくり目の前を歩くあいつの大きな背中、こうして一緒に帰れるのもあと少しの間だけだと思うと胸の奥が締め付けられる。

「あんまり長い間一緒にいたから今更どんな風に好きだって伝えたらいいかわかんないよ」

今なんか言ったー?

あいつが振り替える。

「なんでもないって」

あ、そ。

そう言ってまた前を向き直す

あんまり長い間一緒にいたから今更どんな風に好きだって伝えたらいいかわかんないよ

前を向いたままあいつがさっきのあたしの独り言を繰り返してみせた

「な、な、ななななな。聞こえてたの?」

聞こえなかったよー。だからもう一回言ってみて?

そう言ってあいつはニヤニヤと私に笑いかける

「も。知らない」

立ち止まるあいつを追い越して顔を真っ赤にした私はスタスタと一人家路を急ぐ

おーい。待てよ。もう一回言ってみろってば。

後ろから追いかけながらあいつが叫ぶ

「もう。絶対。二度と。言ってやらないんだから。ばーか。ばーか。ばーか」

馬鹿その④

鳴り続ける携帯の着信を無視してベッドにうずくまって、布団にくるまって丸くなる。
このままじゃいけないのは頭ではわかっていたけどどうしても何にもする気がおきなかった。

不意にまた携帯が震えだし、私は心臓が止まるほどびっくりする。昨日から何度もかかっている会社や友達からとは別のなつかしい着信音。
永遠とも思える悛渋
携帯を手に取ってゆっくりと通話ボタンを押す。
「もしもし?」
何の感情もあふれ出したりしないように意識して。
「あ。彩花?俺だけど」もう二度と聞くことはないと思っていた懐かしい声。
胸の奥が締め付けられるように痛む

「今更何の用」
冷たく。慎重に。高鳴る心臓の音が聞こえないよう祈りながら

「秋吉からさお前がずっと会社も休んで連絡が取れないって聞いたからさ心配になって」

「もうあなたに心配してもらう義理はないと思うんだけど?」
冷たく、冷たく、何の感情もあふれない用意識して。

「心配ぐらいしたっていいだろ?俺達お互い嫌いになって別れたわけじゃないだろ」

私が誰のせいで苦しんでると…。言いかけて言葉を飲み込む

「馬鹿じゃないの?私はもうあなたの事嫌いだから」

言ってすぐ携帯を切った。
もうもどれやしないなら、今更優しい言葉なんかかけられたくなんかなかった。
瞳からこぼれる暖かな液体が頬を伝いベッドのシーツに黒い染みが広がっていく。
もう、戻れはしないと分かっているはずなのにどうしてこんなにも胸が苦しくなるんだろう。

私はきっとひどい馬鹿なんだ。と。そう思った。

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