【自動車工学】過給雑談

1.クルマのターボ化は、昔は燃費悪化が常識だった

 僕がいすゞ自動車に入ったのは1979年ですが、このころはターボを付けると出力は増えるけど、燃費は悪化するというのが自動車業界の常識でした。
 理由は三つあって、
a.排圧が上がってポンプ損失が増えるから
b.ガソリンエンジンでは、ノッキング防止のため圧縮比を落とすから
c.昔はインタークーラを付けてなかったから

2.そもそも過給は飛行機で始まった

 軍用機は高空を飛ぶほど、戦闘で優位になります。ところが高空になるほど空気密度が低く出力を出せません。そこで第一次世界大戦後から過給が開発されましたが、どの国も機械式過給(スーパーチャージャー)でした。
 そして第二次世界大戦となります。メカニズム的にはドイツのメッサーシュミットBF109がおごっていて、エンジンにスーパーチャージャーを、流体式カップリング(フルカン)を介してつないでいました。それで高度に合わせて連続的にスーパーチャージャーの回転数を変えたのです。エンジンはダイムラーベンツのDB601です。
 他機はドイツ、イギリス、アメリカ、日本すべて1速ないしは2速切り替えでした。ただしアメリカはターボチャージャーもありました。
 イギリスのロールスロイスには優秀なエンジニアがいて、2段過給とインタークーラーを採用しました。それでマーリンエンジンは、高空でも優秀な性能を誇っていました。
 先述のようにアメリカはターボチャージャーの開発に成功し、P38、P47、B17、B29といった陸軍機にインタークーラーと合わせて採用しました。ただこのころのターボチャージャーは消耗品で、100時間程度で交換していました。

3.舶用大型ディーゼルでは燃費向上のためターボを付けた

 舶用大型ディーゼルでは、飛行機よりも早くターボチャージャーが採用されました。飛行機(ガソリンエンジン)よりも排気温度が低いため、材料開発に手間がかからなかったからです。今でもVGSといった可変ターボは、排気温度がガソリンより200℃ほど低いディーゼルでしか量産されてはいません。温度が高いと、可変ベーンの軸が錆びたり、排ガス中のカルシウム等(エンジンオイル由来)で固着しちゃうんです。
 目的は燃費向上です。ですから僕は、クルマでは燃費が悪くなるということが理解できませんでしたが、当時は反論できませんでした。
 燃費がよくなる理由は昨日も書きましたが、冷却損失が減ることと、フリクションロスが減ることです。

4.参考文献

ビル・ガンストン『世界の航空エンジン ①レシプロ編』
浅妻金平『ターボチャージャーの性能と設計』

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