見出し画像

令和の等身大ヒーローはどこに向かうべきなのか

 3月18日に庵野監督のシン仮面ライダーが劇場公開され、31日には制作ドキュメンタリーがNHKで放送された。筆者はまだどちらも見ていない。

 これから書くことはまだ見ていない筆者がそれらを見る前のメモのようなもので、もしかしたらどちらも見ないかもしれないが、庵野監督とはそれなりに長い付き合い(もちろんプライベートではない)でもあるし、映画コンテンツの楽しみ方という観点からいうと、現代においては見るまでが面白いという側面もあるのかもしれないことも踏まえて、いわゆる持論を展開していこうと思う。

 さて、見ていないのではなく観に行きそこなった筆者は、原体験としての昭和仮面ライダーについては、ウルトラマンと同等の「少年の日の憧れ」があり、10年前に出張で訪れた金沢の駅前でおそらく地元のテレビの「あなたにとってヒーローとは何ですか?」の質問に対してとっさに「仮面ライダー」と答えてしまったくらいに仮面ライダーは好きなのだ。
 今日までに制作された仮面ライダーは何頭の形で全部見ていると思う。もちろん全話見ているわけではないし、すべてのライダーが好きなわけでもない。あたりまえに良いものもあれば悪いものもあるし、好きなものもあれば嫌いなものもある。

 俳優、藤岡弘演じる本郷猛は、仮面ライダーである。これは長嶋茂雄がミスターであるのと同意語だ。
 よってほかの誰も初代の仮面ライダーにはなれないし、それは平成のライダーを演じたすべての役者がオンリーワンの存在であるべきだと筆者は思っているのだが、それがすべてうまくいっているかどうかについてはまた別の機会にと思う。

 昭和を少年として、平成を大人として楽しんできた僕にとっては、存在するすべてのライダーに対してある一定以上の期待を持ってみてきたし、盲目的にすべてを受け入れてきたわけではないにしても、作り続けられていることには大いなる敬意を持っている。

 庵野監督に対してどうかと言えば、2004年公開、佐藤江梨子主演の『キューティーハニー』から注目している。アニメ監督としてはガイナックスの『王立宇宙軍 オネアミスの翼』に参加していたことで注目したが、それ以外の作品、とりわけ『新世紀エヴァンゲリオン』に関しては、結局ウルトラマンがやりたい人なんだという評価に留まり、「人が見たいものよりも自分が見たいものを作る人」という印象を強く持っている。実際にそうであるかどうかはわからないが、監督という人種には一定数いるタイプであり、往々にして「得意な分野と苦手な分野」がはっきりしていることが多い。

 さて、『シン・仮面ライダー』を観るにあたっては、『シン・ゴジラ』を観たあとの『シン・ウルトラマン』ではなく、『キューティーハニー』ベースで臨むべきだろうなと考えていたのですが、すでに観に行った人たちの話を総合すると、概ね間違ってはいなかったようで、このあたりは想定内だったし、状況を説明するセリフが多いという話も、それは『シン・ゴジラ』でもっと激しくやっているのだから問題ないとおもった。

 映画製作に入ったころの庵野監督へのインタビューで「ショッカーをどうするかが問題で、その解決方法が見つかったので映画を作ることにした」という趣旨の話があったが、今回一番気になっていたのはその「解決方法」だ。

 この点においては平成ライダー1作目オダギリジョー主演の、『仮面ライダークウガ』で警察組織と協力するライダーVS古代人の殺人集団という図式をとることで「本当に無差別殺人が行われたら世間が騒ぐよね」というリアリティを持たせることで平成の等身大ヒーローの在り方を提示し、成功している。

 では「庵野ならどうするのか?」
 既出の手法を是とはしないだろうという予測をしていたのだが、その答え合わせは劇場でするまでもなく筆者のアンテナに入ってきてしまった。
 ネタバレについては現代において防ぎようがなく、だからこそ映画公開初日にいけるかどうかが重要になってくるわけなのだが……。

 庵野監督が仮面ライダーという題材を使って何をやりたかったのかということと、実際に何をし、何ができあがったかということにはそれなりの誤差があるのだと思う。そして同じ「シン」を冠とするシリーズを完全な新作として見てきた人と、それぞれに思い入れがある人の間では伝わる熱量や情報量も異なるし、同じ賛否両論という評価でも、何派と何派といった二元論では捉えきれない状況になっているのではないだろうか。

 そもそもヒーロー映画、等身大の実写作品に観客はどんな娯楽を求めているのだろうか?

 ゴジラやウルトラマンという大怪獣や巨大宇宙人がスクリーンで動く娯楽と等身大では、やはり求められることと表現できることに大きな差があるのだと思う。

 シン・ウルトラマンにおいて等身大の侵略者が日本のお偉方と会談をしているシーンは、コミカルであると同時に子供の視線から見た大人たちの世界はこんな感じではないのだろうかという構造的な面白さがある。
 しかし、仮面ライダーでそれをやることは薄ら暗い印象を与え、秘密結社という存在はリアルに恐怖の対象となる。

 ウルトラマンは空想科学であり、仮面ライダーは恐怖ドラマであり、そもそも人体を改造するなどという設定は悪魔的である。にもかかわらず仮面ライダーがヒーローたるゆえんはどこにあるのだろうか。
 仮面ライダークウガでは主人公、五代雄介の新年「みんなの笑顔がみたいから」という行動原理で自らを犠牲(人ではなくなってしまうリスク)を背負いながら、彼にかかわる人たちの一つ一つの笑顔を守るという「良き隣人たれ」の精神性にヒーロー像を見ることができる。

 本郷猛は、陰で暗躍し、世界征服をたくらむショッカーの「恐怖」から世界を守る姿に格好良さを感じることができるが、そこには一つの復讐のおきてが存在していたように思える。これについては制作時の予算ということともかかわってくるのだが、ショッカーによって改造された自らの肉体をもってしてしか敵とは戦わない。ライダーキック、ライダーパンチ――これがもしも銃や剣を使うヒーローであったら、どうであったのだろうか?

 庵野監督は映画を撮る才能よりも、ヒーローの立ち振る舞いというか、歌舞伎でいうところの見得を表現することあるいは、そうした絵の力を最大限に生かすことのできる人なのだと僕はみている。

 シン・ウルトラマンにおいて、体を高速で回転させてからのキックなんていうのは、劇場で見ていて大笑いしそうになったのだけれども、本来このウルトラマンの回転はキックのためではなく、それによって敵の攻撃を弾き返したり、念力のような超能力を使うためのものだったと記憶している。
 そこをキックにしてしまうところが、いい意味で子供っぽく、悪い意味で大人げないのだと筆者は考える。

 そしてもっとも大人げないと思ったのが、シン仮面ライダーにおけるライダーチップスや漫画の連載開始である。大人だからと言って昭和ライダーの状況をそのまま再現しようなどというのは、いささかやりすぎなのではと思った反面、それに素直に乗っかって楽しめる人をうらやましく思ってしまった。

 これからのエンターテイメントの世界は、観客側がのるかそるかの取捨選択を迫られ、乗るのであればライダーの過去作品やいわゆる「シン・シリーズ」を見返すということが求められる。情報化と検索性が発展した社会においては3次元的な鑑賞法ではなく、4次元的な発想でコンテンツを楽しむことが求められているのではないだろうか。

 4次元は現実世界の点と線と面で構成された3次元に時間軸を行き来するベクトルが組み合わさり、過去現在未来を同時に観察できる世界というのは3次元人の我々には対応不可能な世界であるといわれている(もちろん諸説あるうちの一つ)が、同じスクリーンを見ていてもそれが初体験の人にとっては、初めて見るライダーキックであり、昭和から知っている人からすれば、そこには過去のライダーたちのキックが脳内の同時に投影されている――その一人一人が持つ感想など、単純に比較もできず、概ねライダーを知らないがヒーローに興味はあるという人にとっては面白い作品になっているのではないか。

 そのあたりを確かめるためにもいよいよ僕は劇場に足を運ぶ予定なのだが、そのあたりの答え合わせはまた後程ここでしたいと思う。

 令和の等身大ヒーローについて筆者が今最も注目しているヒーローコンテンツは3月より放送を開始した戦隊ヒーローシリーズ『王様戦隊キングオージャー』なのだが、シン仮面ライダーを劇場で見たあとに、この二つの作品を並べて令和の等身大ヒーローについて考察したいと思う。

 最後にこの映画を観るにあたり筆者が参考とした考察動画をここに紹介したい。筆者はもはやこの手の動画なしにエンターテイメントは語れない時代になりつつあるのだと思う。誰かが膨大な時間と労力を使って撮影した動画を片手間に眺めて情報を整理してから映画本編を楽しめるというのは、何倍も楽しいは言い過ぎでも1.5倍くらいは楽しめるし、楽しまなきゃという動機になりうる。

 筆者のこのテキストも誰かにとってそうでありたいと思う次第です。

おまけの夜

 こちらのチャンネルには庵野作品について柿沼氏が深夜のファミレストークを超えた人気進学予備校の講師の受験対策講座のように「ここが出る!」と予測したり、答え合わせをしており、筆者にとっては今どきのサブカルチャーの楽しみ方のお手本になっております。
 庵野作品以外でも多くの映像作品について紹介動画をアップされておりますので、ぜひ自分の興味のあるタイトルを探してみてください。

 ちなみに筆者がMCUにはまったきっかけとなったのはこちらの動画です



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?