見た夢冷めない夢

人通りの多い町
交差点の左を曲がり
坂道を上がっていくと
飲み屋と小さなライブハウスがある

ライブハウスで観劇を終えて
荷物をまとめて座席を立つと
先程の劇の演者が舞台の片付けをし始めた

私はその演者目当てに観劇していたから
その人が終演後に目の前にいるという
想定外のことが起こったことで
体が固まり出口へと向かえなくなった

その人の姿を見続けてしまっていたら
ついに気づかれて目が合った
あっ、という顔をしている相手は
目を逸らさずゆっくりと近づいてきて
絞り出すように言葉を発した

あなたは、いつもの

そこまで言って相手は言葉を失ったが
私には分かった
私はこの人に覚えられていた

ライブハウスの隣にある公園で
その人を待っていると
相手は荷物をまとめて出てきた

相手は言った

ジャージ姿でいることが多いから
スポーツされてる方なのかと思いました

私は焦りながら答えた

いえいえ、そんなことないです
でも覚えていてくださったのですね

少し前を歩く相手についていきながら
いろんな話をした
私はいつの間にか私の話をしていた
相手には関係の無い私の話を

絵を描く仕事をして
いつかあなたと仕事をするのが夢です




その先の記憶が無い
その先の記憶はもう、消えた
ぼんやりして遠くにある

目覚めて気づいた
これは全て夢だった
私の事をあの人が覚えてるかなんて分からない
覚えていなくてもいい
先の展開も夢だったから忘れてしまった
覚えていなくてもいい

だけど私が絵を描く仕事をしたいことと
あなたと仕事をしたいというのは
いつからかいつまでも離せない夢のまま
私なんかがと思って誰にも話せない夢のまま

この夢を忘れたら私は闇の中で迷子になる

闇の中は寂しくて暗くて冷たい
どこまでも広い闇

夢の中も同じようなものかな
孤独でもあり明るいままでもない
どこまでも広がっていて形もないけど
険しくてもあたたかさがある気がする

その中でたどり着ける光が目標
あなたの手に触れられる場所
あなたと私の道の交差点
環境とか常識とかに縛られずに
その場所を目指したい
あなたがそこにいる間に
その交差点へ向かいたい

夢を見ただけで満足していたくない


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