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大企業従業員→スタートアップ役員の転職で、社会保険はどう変わる?

【スタートアップ×組織人事コラム #6】

「スタートアップ×組織人事コラム」とは、マーサーの有志が運営するスタートアップ企業向けの連載コラムです。組織・人事フィールドで長年蓄積したノウハウをもとに、企業成長をサポートする情報を発信していきます!

​​​昨今、大企業からスタートアップ企業に転職する従業員が増えています。実際に、エン・ジャパンの調査でも、2021年4~9月に大企業からスタートアップに移った件数が、2018年4~9月比で7.1倍となっています。筆者の知る範囲でも、日系大企業や外資系企業からスタートアップに役員として転職するケースも少なくないと感じます

​​会社から雇われる「従業員」から、会社を経営する「役員」に立場が変わるとさまざまな変化がありますが、本コラムでは「社会保険」にフォーカスをあてて解説します

なお、本コラムにおける役員は、主に会社法およびその施行規則が定めるポジションについているケースを念頭に置いています。(取締役、会計参与、監査役、執行役、理事、監事など)​


社会保険とは従業員等の事故に備えて会社を介して加入する公的保険

そもそも、社会保険とは企業に勤める従業員等が加入する保険です。従業員に病気やケガ、出産、老齢、失業等が行った際に、一定の給付が行われます。企業は、従業員を雇ったら、社会保険に加入しなければなりません。

社会保険には、厚生年金保険、健康保険、介護保険、雇用保険、労働者災害補償保険(労災保険)等があります。

  • 厚生年金保険:老齢、障害、死亡に備える

  • 健康保険:病気やけが、出産、死亡に備える

  • 介護保険:老齢で介護が必要となった場合に備える

  • 雇用保険:失業した場合や、育児や介護等で就業が不安定になった場合に備える

  • 労働者災害補償保険(労災保険):通勤や、業務上の災害に備える

このような社会保険は、「役員」が加入できるものと「従業員」が加入できるもので異なります。

役員は雇用保険・労災保険に原則加入できない

先ほど紹介した5つの社会保険のうち、「雇用保険」と「労災保険」は、労働者を対象とした保険です。一般的に、役員は労働者を使用する立場(使用人)であるため、原則として保険加入の対象外となっています。

社内で従業員から役員に就任した際には、通常、給与は上がるとはいえ、それまであった補償が対象外となる経済的なリスクを抱えることになります

なお、役員であっても労働者性が認められ労災保険の対象となる場合や、業務の実情を考慮して「特別加入制度」の適用となる場合もあります。
(本コラムでは、詳細までは触れず、あくまで概略を解説します)

では、従業員は加入できて、役員では対象外となる「雇用保険」「労災保険」とは具体的にどのようなものでしょうか。

<例1:雇用保険>会社を離職して再就職活動する場合

会社を離職して再就職活動をする場合、「従業員であれば」雇用保険の一定条件を満たした場合に、給付を受け取れる可能性があります。また、「専門的なスキルアップをしてから再就職活動をしたい」という人には、厚労省指定の教育訓練の受講費が一部支給される教育訓練給付もあります。

役員の場合、このような会社離職に伴う給付を原則受け取ることはできません。

<例2:労災保険>長時間労働でうつ病になり休職をした場合

長時間労働等で精神疾患が生じて休職する場合、「従業員であれば」労災保険で定められた給付を受け取れる可能性があります。また、病院に通った際の治療費や薬代などは、療養(補償)等給付で全額支給されます。

役員の場合、このような業務に関わる災害に伴う給付を原則受け取ることはできません。

業務委託の社会保険に関する留意点

「従業員」を除き、会社の仕事をする人材として、業務委託(副業者・フリーランス等)があげられます。業務委託人材も労働者ではないため、原則として「雇用保険」や「労災保険」の対象からは外れます。

ここで注意したいこととして、「業務委託であっても労働者とみなされれば、通常の従業員と同じように労働関係法令が適用される」という点です。つまり、業務委託人材も、他の従業員と同様に社会保険加入や年次有給休暇の付与、労働時間管理の義務が発生するケースがあります。

業務委託人材と社会保険の適用のもととなる労働者性の判断については、フリーランスガイドラインでも説明されています。

フリーランスとして安心して働ける環境を 整備するためのガイドライン
フリーランスとして安心して働ける環境を 整備するためのガイドライン概要版』

まとめ

スタートアップ役員としては…

役員は労災保険と雇用保険に加入しないため、万が一の病気やけが、再就職時の保障が、従業員として雇用されたいた場合に比べて乏しいです。
必要に応じてこのようなリスクには、自身の貯蓄等で備えていく必要があります

役員がいるスタートアップ企業(経営者・人事)としては…

会社として安心して役員候補人材を迎えられるような仕組みを検討する必要があります。例えば、D&O保険を始めとした、経営者や役員向けの保険に加入することは方法の一つです。

また、ビジネスの成長と共に必要となる労務の知識を持つことも重要です。しかし、社会保険を含めて、すべての内容を把握することは難しい場合もあります。そのため、社会保険労務士や行政窓口などの専門家に相談し、適切なアドバイスを得ながら、自社の状況に応じた対応を心がけましょう。

マーサージャパン、およびマーシュジャパンでは、企業保険に関する支援も行っています。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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◇本記事はマーサージャパン公式のコンサルタントコラムをもとに再構成・執筆をしています。


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