「自己実現=仕事」っていう思い込み

白状すると「仕事による自己実現」というフレーズを、かつては自然に信じていた。怖い話だ。別に仕事を介さなくても、やりたいことは達成できる。自分らしさを発揮するのが職場である必要はない。

そもそも「自己実現」が何なのかもよくわかっていないのに、なんだってそんなスローガンをするりと聞き流せたのだろう。自己実現って、そもそも何?自分にしかできないことをすること、だろうか。だとしたら、仕事より家族との時間とのほうが大事じゃないだろうか。仕事上の役割は替えが利くけど、家族はそうはいかない。私は母親にとっての唯一の娘で、母親は私にとってたった一人の母で。

だから家族と過ごすことは、必然的に常に自己実現である……とも言いにくい。一人でいたって、自分にしかできない充実した営みは可能だからだ。絵を描き料理をして、本を読み紅茶を飲む。私がやりたくてやることはすべて、私による自己実現だ。

そこに「人々に貢献し金を稼ぐ」要素がなくても「私」「自己」は勝手に実現される。そういうものじゃないか。
仕事を通じて自己実現!と誰が最初にそう言ったのか知らないが、あなたはあなたでそれでいい。でも、私にまでその態度を、押し付けないでくれ、と願う。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。