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クロップ退任に思い馳せる ~偉大な指揮官と歩むラストダンス~


2024年1月26日19時36分。英国時間10時。衝撃的な一報が届いた。

ユルゲン・クロップ、今季限りでリバプールを退任。

クラブの公式SNSが発信した25分のインタビュー動画とともに、2023/24シーズンで9年間にも及ぶリバプールでの監督キャリアに幕を閉じることが発表された。

https://youtu.be/mHYsAgAx5I4?si=REXuyucin0jnOAEp


ユルゲン・クロップ。フットボールに多少なりとも見識のある人ならば、名前を知らない者はいないだろう。ドイツ出身の彼は、現在、イングランド・プレミアリーグのリバプールFCを指揮し、クラブを世界最高峰へと導いてる。

私自身、このクラブの1ファンとして、クロップ就任初日から定点観測をしてきた。諸々の状況に理解が追い付いてきたところで、今の心境を備忘録として綴りたい。


目を疑った。言葉が出なかった。まさに寝耳に水。それが最初の感想だった。

9年前の就任時を振り返ると、リバプールは今でこそフットボール界の先端を走るチームだが、当時は名門やビッククラブと呼ぶにはあまりにも寂しい状況だった。現場、上層部ともに不安定な時期が続き、リーグタイトルからは長く遠ざかっていた。そんな状況で、MLBのレッドソックスや他競技の運営を行っているスポーツビジネスに長けたアメリカ資本 (Fenway Sports Group、通称FSG) の買収があり、新たなビジョンの下での“復活”を目論んでいた。その矢先の着任だった。

そこから瞬く間にチームを作り上げた。前線から一網打尽にボールを追いかけるハイプレスは、現代では取り入れない監督はいないほどの戦術となった。最後まで足を止めずにゴールへと襲いかかる攻撃的なスタイルが、世界一の熱狂を持つホームスタジアムと呼応した。2018/19シーズンには14年ぶりの欧州制覇、翌シーズンには30年ぶりとなる国内リーグ優勝とクラブのワールドチャンピオンになった。

一方で、他の強豪に比べると経済的に厳しく、十分な戦力補強ができなかったことの方が多かった。彼が志向するハイテンションでタフな戦術には犠牲が多く、負傷者が続出し、その影響で敗戦が続き、批判的な意見にさらされたことも少なくはない。無論、私自身も昨季の低調ぶりには懐疑的になり、堪えたと言わざるを得ない。

実際に、中東資本のオイルマネーで牙を研いだライバルたちや潤沢な運営基盤を誇る名門に挑み、1ポイント差で、あと1勝で、と涙を飲むことがほとんどだった。今でも悔しさは忘れられない。

だが、いつどんなときにもクロップの振る舞いには救われた。困難なときも決して誰かを責めることなく、ひたすらに見せ続けた勝負への姿勢。それこそがユルゲン・クロップの監督としての全てであり、偉大さたる所以だ。


“We have to change from doubters to believers.”

就任最初のインタビューでクロップはファンに向けてこう言った。

チームを一丸とさせる包容力、周囲の人々を情熱的にさせる力、見るものを魅了する唯一無二な人物である。ユーモアも忘れない。試合中に喜びすぎて、ハムストリングを痛がる監督などいるだろうか。(笑)

https://twitter.com/premierleague/status/1751195846903828728?t=bREJb3MXVCxDCJmaUaPPww&s=19


退任の一報で抱いたこの形容のし難い喪失感、背骨を抜かれたような感覚は、彼がこれまでに築いた信頼関係の大きさを実感した。各所からの反応を見ても、ファンのみなが疑う者から信じる者になれた証である。

同時に、フットボールの主流が目まぐるしく変わる昨今において、最前線で戦い続ける難しさを痛感した。前述した動画や直近の会見からもクロップの疲弊度合いは感じ取れた。本当に頭の下がる思いでいっぱいだ。

昨年11月に退任を決断し、今回の発表に至った。現行の契約は2026年まで残っていた。10月に行われた翌季の構想やサマーキャンプを決める監督主導の戦略会議で、100%のエネルギーを注ぐことができないかもしれないと感じたという。昨季の不調で辞任を考えていたが、周囲の説得や良い状態で去りたいという本人のチームへのリスペクトもあり、続けていた。モチベーター・クロップでさえもエネルギーが枯渇するときが来てしまうのかと考えさせられた。

このプロフェッショナルな決断もさることながら、クラブの将来設計や選手スタッフやその家族にも配慮した発表、これもまたクロップらしさだと感じた。


2024年1月30日現在、クロップのチームはシーズンを折り返してプレミアリーグ首位、他の3つのコンペティションも全てに勝ち残っており、来月にはカラバオカップ決勝も控えている。2年前に達成できなかった4冠への期待感が高まりつつあるタイミングでの発表となった。

今季のチームは大改革を行い、新たな船出となるシーズンと考えていただけに衝撃は増した。まさか、これが集大成になるとは思いもしなかった。勝負の世界、監督など大半が敗北からの解任である。なんて美しい去り際だ。

選手たちには発表当日の朝に伝えられた。その後、監督の去ったロッカールームから聞こえてきたのは、キャプテンであるファン・ダイクを中心とした最高のシーズンにするという決意の声だったという。彼らはクロップの誠実さに惹かれて加入した者ばかりだ。今季は、特に、アカデミー生の躍動も目覚ましく、チームの団結力には目を見張るものがある。何か特別なことを起こすには十分な雰囲気だ。

https://www.telegraph.co.uk/football/2024/01/26/jurgen-klopp-liverpool-exit-secret-premier-league-anfield/

もちろんKOP (リバプールファンの総称) も燃え上がっている。発表から間もなくクラブの公式ホスピタリティーチケットは完売していた。どうにかしてクロップがいるアンフィールドへ行きたい。ファンの気持ちもみな同じだ。

クロップの退任はリバプールだけでなく、プレミアリーグにとっても大きな損失だろう。それほど大きな影響を与えた。ペップ・グアルディオラとともにフットボールのレベルを新たな次元へと導いた。


ユルゲン・クロップは、リバプールの消えかけた情熱に油を注ぎ、幾多のドラマを創り、そして、我々の大きな“夢”を叶えてくれた。

今が素晴らしい瞬間だと噛み締めながら、残された期間を目に焼き付けたい。

クロップリバプールが挑む最終章。
最後に最高の栄冠を再び。
今こそ、あの言葉の様に。
チーム一丸。ともに歩もう。


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