2018年『新聞歌壇』掲載短歌

【東京歌壇】


東直子選

題名のない後悔に膝抱え黙すあなたに膨らむ蕾  
1/28

隕石に電話をかけるような恋 洗濯物を前にして泣く   
2/4

質問を初めて許された案山子のように君は玄関に立つ 
2/11

エレヴェーター降りる昇る降りる昇る献花の如く立ち尽くしつつ
2/18

歩道橋ハイソックスが落ちている はしゃいだあとはあなたがきれい
3/4

紙を漉く僕の周りではしゃいでる光の子らにあだ名をつけよう
《特選二席》
4/1

沈黙が不安を醸造する零時きみは饒舌芸人が好き  
4/8

仕方なく果肉を崩すスプーンの 椅子の冷たき食卓の夜
《特選二席》
5/27

シュレッダーにホームシックを突っ込んでマネキン運びのロボットの笑み
《特選二席》
7/1

僕という奇跡を胸に抱き抱え十字架の道傾きながら  
7/15

首筋を舐め合う鳩が宵闇に 線香花火落ちて落ちきれ  
7/22

肩先を夜が浸してゆく街を 点り始めるあなたの声を   
9/2

死に至る病やタオルを干したまま出掛けてしまった晩夏曇り日  
9/30

佐佐木幸綱選

やさしさにうなだれかかる君の背の白き荒野に耳沈みたり
《三席》
4/8

亡き母が夢の中へと滑り込むその傾斜角を我は忘れず
《特選一席》
5/27

ひまわりから風が聞こえてくるようだゴッホの筆の運びのままに
7/22

ただいまと挨拶すれば沈黙がやさしく吹くのだ墓の前では
7/29

捨てられた希望がみんな輪になって音なく踊る夏の綿菓子  
8/12

アクアサンタ・テルメの町の瓦礫には死はまだ眠る指環のかたちの
8/19

水泡のかたちで朝が訪れて酸欠気味の我を救えり   
8/26

難しいあなたを簡単にしたいコンスタンタンのノートのように
9/9

『ノスタルジーの増設中です』発注者:チキンライスに刺さりし国旗
9/30

【日経歌壇】


穂村弘選

あらゆる場所の矢印を反転させてふたたびきみにはじめてあいたい
3/24

海老がサンバを踊るみたいな五月晴れ母の日母のお墓に参る
6/9

三枝昂之選 

100万回生きたねこから訊くべきは100万回の死の迎え方
《三席》
5/12

※2018年の秀歌
《年間三席》
12/22


【読売歌壇】


俵万智選

双子座は裏があるねと言う君の天秤少しぐらつかせたい
1/29

マークシート試験の選択肢のように愛する人は差し出されない
2/19

歩きつつふと振り向いていいですか風をあなたと空目したくて
3/12

「」(かぎかっこ)夢の樹林で拾う春あなたの声を取り戻したい
3/19

君と俺どれほど遠い二点でも一つの線になる必然性
4/10

ずぶ濡れで愛してくれたあなたごと乾かすことから始めたい春
4/16

人生のエンドロールは観るときはあなたとポップコーンを食べたい
《特選三席》
5/14

文字じゃなく声で好きだと言うために足があるんだ君に会いたい
6/25

別れたあとのふたりは友愛数である220とあなたを呼ぼう
《特選二席》
7/10

書初めの筆の運びを思い出す恋は何度も下手くそのまま
《特選二席》
7/23

ライターじゃなくマッチがいい 君の観る遺産目当ての女のニュース
9/17


【毎日歌壇】


伊藤一彦選

冬空に大書するならこれが良い地味にこつこつ略して「じみこつ」
《特選一席》
2/6

詩粉症患者の僕は日を問わずポエジーというくしゃみを発す
3/26

神様は闇夜に罅を入れたくて朝の刃を鋭く立てる
6/25

声高におはようをいう海鳥よ我を忘れて飛び立ちなさい
8/14

我こそが王様なりと叫びたし風呂場の我は裸なるゆえ
8/20

百円玉一枚握り締めていた幼い頃は町が広くて
12/17

米川千嘉子選

ネガティヴなレッテルばかり張る人のズボンが少し破けています
4/30


【産経歌壇】


伊藤一彦選

挨拶もなく同居する花粉たちわたしの鼻は狭いだろうよ
3/21

新しき元号見据え懐胎の時期操作する新婚夫婦
4/11

   


【読売新聞・よみうり文芸(神奈川県版)】


秋山佐和子選

目を瞑り森が見えると母が言う僕は兎だ遊びに行くよ
《三席》
1/19



計四十六首

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短歌

三十一文字という可能性。 現代短歌という地平。 ポエジーの奔流。
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