月末である。請求書発行という事務処理をこなさねばならない。
 この10月から適格請求書等保存方式、通称インボイス制度がはじまった。わたしは課税事業者を選択した。インボイスを発行する立場となったわけだ。
 10月末に発行した請求書は1枚だけ。先方が発行する「明細書」が自分の記録と合っているかどうか確かめ、先方の書式に従って書いていく方式であった。インボイス番号はすでに通知済であり、これまでと違ったルーティーンはなかった。
 他の取引先は、こちら側は何もしなくてよい(請求書を発行しない。先方から明細が送られてきて、それをチェックするだけ)ところだけだった。いわば請求書発行ということでは、10月はインボイス制度によって変わった箇所はなかった。
 ところが11月は、こちらから請求書を送らねばならない取引先への請求書があった。ここへもインボイス番号はすでに通知済である。
 深く考えることなく、これまでの書式に則って書いて送信したところ、すぐに返信が来た。
 曰く、「消費税」の欄に「税率(10%)」と入れてほしい。具体的な「納品日」を記載してほしい。そうでないと適格請求書(インボイス)の要件を満たさないという。
 まぁ、フォーマットに少し手を入れればよい。大した手間ではなかったので、すぐに書き直して送った。これからはこのフォーマットで書いていかねばならないな、と頭の隅によぎったが、それだけだった。
 だが、こういう「ちょっとしたところ」の事務の手間が積み重なって、「インボイス残業」をしている人たちもいるのだ。
 インボイスはおそろしい制度。これまで免税だった零細事業者が課税事業者を選択すれば、消費税をむしり取られて実質的な収入減になる。免税事業者のままでいると、取引先から消費税分の値下げを強要されたり、ひどい場合は(通知も受けずに)取引停止されたりする。そして零細事業者と取引をする企業側も、膨大な経理事務処理に追われることになる。まさに「関係者がだれも得しない制度」なのである。
 もちろん、嘆いても仕方ない。自分は課税事業者になることを選んだ。そのつもりで、気を引き締めてやっていかなければ。取引先を増やすことも考えよう。遅まきながら、初めてそう思った。

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