個人がするミスその1 学習不足(日本語)

 昨日書いた「個人がするミスその1 学習不足(英語)」の続きである。まず、言葉の仕事に関して「個人がする」5種類のミスから書いておく。
 1. 学習不足(未知であるためのミス)
 2. 記憶の想起不良(その場で正しく思い出せないためのミス)
 3. 計画不良(計画の立て方に問題があるためのミス)
 4. 注意不足(集中力不足等により起こるケアレスミス)
 5. 伝達不足(情報が正しく伝わらないためのミス)
 今日は、1の学習不足、とくに日本語の学習不足により、翻訳および翻訳校閲でどんなミスが生じるかを述べる。

日本語の学習不足により起こる翻訳・翻訳校閲のミス

 日本語(の文法・コロケーション)について未知であるために起こるミスは、「不自然な日本語」になるだろう。原因としては、文法・コロケーションを知らないということだ。

解決策1:知識を取得する(日本語文法)

 昨日、英文法は習いに行くのがよいと書いたが、日本語文法の場合、教えてくれるところがかなり少ないので、特に最初は独学にならざるを得ないだろう。その場合のお勧め参考書を挙げる。
 まずは加藤重広『日本語文法入門ハンドブック』がよい。練習問題もあって、これを1周でも回すと、日本語の文法書を引けるようになる。
 英語でもそうだが、ある程度包括的な知識がなければ参考書で調べることもできないのである。この本はさほどの厚さもないし値段も手軽で、「最初の1冊」とお勧めだ。
 「そこまでのやる気はないけど、ちょっとかじってみたい」というならば原沢伊都夫『日本人のための日本語文法入門』がよい。新書で薄いし「読み物として読める」のがよい。日本語文法ってこういうものなのかということがわかる。

解決策2:調べる(日本語文法)

 英語の文法書を持っていない翻訳者は少ないだろう。だが日本語となるとどうだろう。
 まず1冊というなら、わたしの翻訳校閲講座を受けてくださった方なら「あれか」と思っていただけるだろうが、三好礼子・吉木徹・米沢文彦『すぐに使える実践日本語シリーズ ことばをつなぐ助詞(初・中級)』。
 日本語で辞書よりも詳しい文法書を見てみたいというとき、最初はほとんど「てにをは」について引くことになるかと思う。そんなときにこの1冊が役に立つ。
 次に益岡隆志・田窪行則『基礎日本語文法―改訂版』を挙げておく。どちらかというと「読むための本」ではあるが、わたしは「引くための本」として使っているし、使い勝手もよい。
 最後に、日本語文法学会『日本語文法事典』。そこそこ高価(8800円)だが、やはり日本語を書く人は持っているとよいと思う。「こういう事典があるんだー」と知って、買うのを勧められ、数年後に「やっぱり買うか!」と思って買う(わたしがそうだった)。そして頼りにする。そういう事典である。

解決策3:調べる(コロケーション)

 翻訳者の日本語ライティングの弱点のひとつが、「コロケーション」であるとわたしは思う。コロケーションの鍛え方は別途また書いていくが、「コロケーションを調べられる」ツールとしては辞書とコーパスがある。
 わたしが毎日使っているのが小内一編『てにをは辞典』。これは翻訳者でも持っている人は多いだろう。ただし、電子版がないので紙の辞書のみであるのと、どちらかというと文芸寄りでビジネスに使う語は少ない。
 ビジネス寄りのコロケーション辞典なら、『研究社 日本語コロケーション辞典』がよい。こちらは電子版もあり、辞書ブラウザLogovistaで引くことができる。
 さらに、いちばんのお勧めは無料かつオンラインで使える「少納言(KOTONOHA現代日本語書き言葉均衡コーパス) 」https://shonagon.ninjal.ac.jp/ である。
 文章を書いていて辞書を引きたいと思っても、目をモニタから、手をキーボードから離して紙の辞書を取り上げるのは意外に面倒なものだ。電子辞書であっても、別のアプリケーションを立ち上げるとなると、やはり少しだけ面倒に感じる。
 少納言はその点便利だ。ブラウザに「少納言」と打てばその場で、つまり「いったん目と手を別の場所に写す」ことなく調べられる。「このコロケーション大丈夫かな?」と思った瞬間に引けるのがよい。無料でもあるので、まだ使っていない人がいたらぜひ勧めたい。
 ということで、今日は「日本語に関する未知の事項」があるためのミスに対する解決策を述べた。
 翻訳者なら誰でも英文法は勉強する。英訳者ならばコロケーションも調べる。だが、日本語文法も勉強し、コロケーションも調べるようにすれば、格段に日本語ライティングの腕は上がる。独学するのも、お金も時間もさほどかからないはずである。ぜひ取り組んでほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?