「この辺のはずですよね」スマホのナビを見て2人があれこれやっているが、なかなか特定できない様子。
 ならば出番か。道の端に寄ってキャリーケースを開け、中身をほとんどひっくり返してみて、やっとのことで引っ張り出した。『でっか字まっぷ 東京23区』がそれである。
 紙の地図は、方向音痴のわたしには必須のアイテムだ。もちろん、今日の目的地が載っているページには付箋を貼り、住所も書いてある。
 自分の現在地を特定してから、地図を回転させて目的地の方向を「上」にして見ないと読めない人もいるのかと言って驚くのは、地図が読める人たち。
 「地図の読めない女」そのまんまであるわたしは、地図を回転させたってなかなか目的地にたどり着けない。だから、連れがいるときには地図は出さず、Googleマップを使いこなせる人についていくのである。
 しかし、スマホのナビ機能がいまひとつというロケーションもたくさんある。今日がそれに当たるらしい。
 そんなときにはアナログのアイテムが活躍する。地図を両手であっちへ回したり持ちかえたりした末、「あの信号のたぶんちょっと先」なのではないかと見当をつけて歩き出す。
 周辺に住居表示板がないので、現在地がどこなのかわからない。それでも交差点の名前を手がかりに、ナビ派の2人の「ここで曲がりましょう」についていく。
 デジタルとアナログ、ふたつの手段を駆使して3人でうろうろ歩く。たぶんこの辺のはずなんだけど、お目当てのビル名がどこにも見えない。「この辺」と「ここ」の違いがいかに大きいかを知るのはこんなときだ。
 と、「あ、あそこに!」やっと住居表示板が見つかった。3丁目44番地。地図を見ると、ちゃんとその番地が載っている。よしここだ、現在位置特定完了。2人はスマホを眺めつつ、まだ首を傾げている。というわけで「やっぱり紙の地図が最強なんですよ!」と力説してみる。充電が切れる心配も要らないし、磁場などに影響を受けることもない。ただ、そこにありさえすれば使えるのがアナログ媒体というものである。
 指で地図上の一点を差して「いまはここにいるわけです。で、39番地に行くのだから」と言うと、地図の読める人が『でっか字まっぷ』を覗き込み「ああ、こっちこっち」と先に立って歩いていく。
 紙の辞書は最強だが、それを使うユーザーが「最弱」では、ほんらいの力は発揮されない。わたしはいつだって地図を携えて歩いているのに、目的地とまったく違う方向へ歩き出したり、周りをジグザグ歩行したり、くねくね迷ったりして、時間ばかりかかってしまうのはそれが理由だ。
 だが今回は、地図の読める人が「最強ツール」の紙の地図を手にしたのである。住居表示版も見つかり、あっさり目的地へ到着した。ほら、やっぱり紙の地図が最強だよね。ちゃんとしたユーザーとチームを組めば、だけれど。

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