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バタークリーム

昔姉が可愛いといって買ってきたカップケーキはとても美しく可憐で僕を虜にした。

キラキラと輝くフェイクシュガーと鮮やかな色に染められたバタークリーム、僕は食べるのが惜しくてそっと宝箱にしまった。

庭で水遊びをして、アイスを食べて大満足の僕は今日のとっておきの仕上げとしてあの素敵なカップケーキを見ると決めていた。

だけど宝箱にしまったはずの素敵なカップケーキは夏の暑さでドロドロに溶かされていた。

溶け出したバターは、そのはしたない色の脂で僕の宝物も宝箱も汚していた。

俺はあれ以来美しいものが大嫌いだ。

永遠に美しいものなんて存在しない。
全てのものは鮮やかさを失い、いつかは朽ち果てる。
それを美しいという人もいるけど、僕には理解できなかった。

クラブで近くに居合わせた年上の女に声をかけられて、興味本位で近づいた。

メイクした肌と赤いリップが溶け出したバタークリームのようで吐き気がした。

適当な言い訳をしてその場を切り抜けて、そのまま店を抜け出した。


生温い夜風と室外機が噴き出す熱気が混ざり合うカビ臭い路地裏でタバコに火をつける。


「お兄さん、火、もらっていい?」

近づいてきたその男は薄明かりでもはっきりとわかるほど美しかった。

ああ、美しいものなんて大嫌いだと決めていたのに。
ああ、夢中になんて二度とならないと決めていたのに。

強い夜風が吹いてタバコがチリチリと急くように燃えた。

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