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【好きなことで、生きていく】85歳の父がYouTuberになってた話

皆さん、推しのYouTuberはいますか?

私にはいます。父です。

私のお父さんはユーチューバーです。

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父。水谷貞夫。85歳の疎開経験者。

父のYouTubeチャンネル「今にいかせ」。2013年からやってます。

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動画の中で父は、歴史上の出来事や偉人についてとうとうと語っています。

もうね、テロップを入れたほうがいいとか、マイクをよくしたほうがいいとか、構図がどうとか、そういうのと別の次元で成り立ってるチャンネルです。(ぜひ動画をみてください。)

ちなみに「YouTuber」はウィキペディアによると、「広告収入を得ていること」が条件なのだとか。

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はい、うちのお父さん、もらってます。間違いなくYouTuber。

Googleさんからの広告収入で、月に1度お母さんと鰻を食べに行くことを楽しみにしています。

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生きがいを失くした父が出会った

父がYouTuberになるまではすこしだけ道のりがあります。

フリーで行政書士や講師業をして、70歳で隠居した父。「これからは悠々自適だ」って言いながら散歩と図書館通いを日課として、たまにお母さんと旅行をして。理想の隠居像に見えていました。

しかし3年くらい経ったころから「俺は毎日、起きて食って、クソして、寝る、この繰り返し。むなしい。」と愚痴るようになります。

現役で仕事をしていた頃だって、忙しい合間に旅行をしたり、「お母さんと船の免許とってくる!」とか言って趣味に凝ったりして、引退してこれから何でも存分にできるねって思っていたのに…。

少しずつ背中が小さくなっていく父。そんな憂鬱になりはじめた彼の生活を一変させた目標はまさかの「YouTuber」でした。

パートナーは近所のおじさん「フジオカさん」

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動画の撮影、編集、配信の全ては、「フジオカさん」がしてくれています。

フジオカさんは地元の国道沿いにあるリサイクルショップのオーナー。2012年末の平日昼間、父が日課とする散歩途中に、冷やかしで入店してあれこれ話すうち「水谷さん博識ですね!ユーチューブやりましょうよ!」と囃し立ててくれてから7年間ずーっと続いています。平日ほぼ毎日更新。

ちなみに父は、今もパソコンは触れないし、スマホも持っていません。

フジオカさんが日々、「先生!今日は何人観てくれていますよ!」「先生!チャンネル登録がこれだけ増えました!すごいことですよ!」と父をノリノリにしてくれます。もう父から覇気のない愚痴は一切聞かなくなりました。

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拝啓

フジオカさんへ

いつも父を家から連れ出してくれて母が感謝しています。いつも父の長い話を聞いてくれて息子が感謝しています。

父の寿命を伸ばしてくれているのは確実にフジオカさんです。本っっっ当にありがとうございます!!!!!

敬具

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安否確認はYouTubeの更新通知

親元から離れ、上京して15年がたちました。
普段父とはメールも電話もしないので、YouTubeの更新通知があると「ああ、変わらず元気なんだな」と思えています。まさかデスクトップ通知が安否確認になるとは。

7年前、「親父がなんかはじめたみたいだけど、元気ならいいや」くらいに思っていました。そして「まあでも、YouTubeは難しいだろうなー…」と。

完全に舐めていました。ごめんなさい。

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パソコンは触れないし、スマホ持ってないし、もちろんSNSの意味も知らない85歳の父。

息子が「お父さん、今のインターネットはこうなんだよ」って言っても説得力は全然ありません。だって一族であのGoogleさんから広告収入があるのは父だけだから。親父、先見の明が過ぎないか?

おれが死んだらこうすること

我が家には父がつくった「おれが死にかけたり、死んだらこうすること」をまとめた文書があります(家族の同意サインつき)。いつだか「生前戒名つくってきた!」とも話していました。

YouTubeの動画は1500本になろうとしています。たぶん父が死んでも、もうこの数の動画をなんとかしたらデータで父をつくれるんじゃないかな。きっとそれも見据えているんだと思います。肉体が消えても動画を更新し続ける世界。デジタルネイチャーかよ。

47歳で私が生まれて、小学生のときはなぜか年齢を教えてくれなかった父。疎開経験の思い出話をたまに聞くけど、きっと思い出したくないこともあるから本当にたまにしか話さない父。それに自分の話は過去より未来の話ばかり。いつも「次はこの動画を撮ろうと思ってる!」と生き生きと話します。このまま100歳こえて生きてほしい。

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「今にいかせ」

父が現役の頃、日々の生きがいや目標は、きっと家族の成長もあったのだと思います。今はYouTubeチャンネルを育てることが彼の生きがいになっています。

父と息子の関係だからか、父と私は2人きりで話すことはほとんどありません。お母さんから「お父さんが元気でやっとるかなー?って言ってるよ^^」とメールがあったりする程度。父親のことを考えてnoteを書いたのなんてはじめてです。

今は「禍」という諸事情で実家に帰れない日々です。父にももちろん会えません。すこし心配、いや実はかなり心配してます。

でもきっと大丈夫。

今日も父から「今にいかせ」と更新通知がやってきます。

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(おわり)


ー2020年7月追記ー

本作は文章コンテスト #キナリ杯 にて準々優勝に選ばれ、コルクインディーズより発刊された電子書籍に収録されました。

【電子書籍】
キナリ杯2020 (コルクインディーズ)
https://www.amazon.co.jp/dp/B08DFL3MXT/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_nedCFbTW1EYBQ

【キナリ杯とは】
作家・岸田奈美さんが2020年4月に主催した文章コンテスト。応募総数4240件のなかから53名が受賞者が選ばれました。

岸田奈美のキナリ杯!おもしろい文章が読みたい
https://note.kishidanami.com/n/n616a85e2c70f

準々優勝・準優勝作品一覧
https://note.kishidanami.com/n/na7ab956ae1c8

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