夢の中

うまく息ができなくなる。
喉の奥に石でも詰まっているような心地がした。
言ってしまった。
ついに心の奥にしまっておいた言葉が、冗談と称して滑り出して刃物になってしまったのだ。
本来であればスッキリするはずなのに、彼女がつぶやいた言葉を見てどんどん黒いものが溜まるばかり。
こんなことになるなら、もう少し早く嫌いだとでも言っていれば良かっただろうか。
いや、無理に決まっている。
だってそうすれば彼女は泣いてしまうだろう。
ただただ謝るばかりのロボットのようになってしまうだろう。
考えていくとますます息が詰まっていく。
どうだろう、何をすれば解決するだろう。
謝ればいいだろうか。いや、そんなことをしても取り合ってくれない。そうなると話し合えもしない。
こんなことになるなら早めに命を絶つべきだった。目の前で地面に落ちてしまえば、と。
グルグルと考え込んでいくうちにどんどんと負の感情が湧いていく。「そもそも彼女がいなければ」そう閃いてからは早かった。
安いナイフを黒いリュックに入れる。
気付けば一人暮らしの彼女の家の前。
インターホンを押した時、ふと自分のしようとしていることの重大さに気が付いた。
取り返しのつかないことをしてしまう、早くブレーキをかけなければ彼女の事をメッタ刺しにしてしまう。玄関の鍵を開けてもらったあとはリュックの中のナイフを探りながら、ひたひたと土足で彼女の元へ歩くのみ。
警戒心のない彼女、背後からナイフを振り下ろそうとした。

夢を見ていた。覚めないでと願うことが、夢だという何よりの証拠だった。

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