実践的メタ分析習得講座: Road to a Systematic Review and Meta-Analysis Master


この記事がおすすめの方

  • 学術論文を書きたいが使えるデータがない、もしくは手元データのサンプルサイズや質の問題でお困りの方

  • メタ分析論文を読めるようになりたい方

  • 症例報告はたくさん書いてきたが、もっと高度な研究にトライしてみたい方

  • 系統的レビューもしくはメタ分析論文を書いてみたいがどうすればいいか分からない方

  • 総論やエディトリアルは書いた経験から、系統的レビューやメタ分析を自身で書いてみたい方

  • キャリアアップのためにハイインパクトジャーナルでの業績を獲得したい方

  • 学生や院生を指導するため、系統的レビューやメタ分析についての知識をつけておきたい教員の方

自己紹介

医師。医学博士。東京大学理Ⅲ入学、同大学医学部医学科卒。東京大学医学部附属病院や都内関連病院で4年間働いた後にUSMLEを取得し6年間渡米、二つの内科系専門医資格取得。イギリスに移住後、臨床と並行してロンドン大学大学院博士課程に進学し、医学博士号取得。合計12年間の海外生活を経て、帰国後は都内クリニックで臨床と並行して臨床研究や疫学研究を行い多数の学術論文を発表している。メタ分析論文30編以上。

研究実績

筆頭著者として28編のメタ分析英語論文を発表(2023年7月まで)。トピックの設定から、系統的レビュー、メタ分析、原稿執筆まで全ての過程を担当。メタ分析論文の平均インパクトファクターは6(最低2.1、最大13)で、合計インパクトファクターは170以上(2022年度版)。発表したメタ分析論文はガイドラインや専門書、論文で多数引用され、2022年と2023年にClarivate Highly Cited Researchersに選出。メタ分析に関する論文のほかに、ケースレポート、原著論文、系統的レビューなどを発表し、総論文数は60以上になる。国内の大学や研究機関のほかに、アメリカ、イギリス、香港、オーストラリアなどの研究者との間で共同研究を実施している。

2022 Highly Cited Researchers

メタ分析との出会い

ロンドン大学大学院での恵まれた環境で臨床研究に励んでいたころに、日本に帰国後も研究を継続する方法を模索していました。手元にデータがなくても既存の研究論文を基に実施できる研究として、系統的レビューとメタ分析に目をつけましたが、私の周りにはこれらの研究手法に詳しい人が誰もいませんでした。そんな中、

ロンドン大学で開催された系統的レビューとメタ分析に関するワークショップ形式の講義を受講することが出来ました。講師は、何十編ものメタ分析を含むコクランレビューを発表してきた現役の外科医。数日間に渡る講義の期間中に、練習として興味を持ったトピックについてメタ分析を開始しました。講義の昼休みと講義後の時間は、毎回講師に大量の質問を投げかけ、数えきれないほどのトライ&エラーを重ねながら試行錯誤しました。その結果、講義期間が終了する頃には2つのメタ分析の解析が完成しました。せっかく得られた研究成果でしたので、それらのメタ分析結果を元に2編の論文として原稿を執筆し、臨床系のトップジャーナルに投稿してみました。駆け出しの研究者が見よう見まねで書いた論文(しかも単独著者。この時点でPRISMA guidelineに抵触)が著名な医学誌に採択されるとは期待しておらず、コメントがもらえればラッキーだと思っていました。ところが、私の予想に反して、2編の論文はいずれも査読者から好意的なコメントが寄せられ、無事に採択されました。そして一気に合計10以上のインパクトファクターを獲得することになりました。メタ分析が臨床研究とは異なるインパクトを持っていることを知り、メタ分析のポテンシャルの高さを実感しました。

日本人医師を取り巻く研究状況

昨今、日本の研究力が質・量、共に低下している事は周知の事実です。日本は、欧米に比べて研究を実施するための資金や人材、環境など多くの点で厳しい状況にあります。例えば、日本の大学病院に勤務する医師が激務の合間に完成させた研究(カルテから100人の患者情報をレトロスペクティブに抽出し、学生時代の記憶をたどって行った統計解析によって得られた結果に基づく論文)と、政府からの潤沢な研究資金を用いて研究チームを構成し、経験豊富な研究者が協同して完成された研究(他施設で収集された5000人のプロスペクティブな患者情報を統計学者が解析し、得られた結果を専門家で考察された論文)があった場合、どちらの論文がより科学に貢献できるか、結果的にいいジャーナルに採択されやすいかは明らかでしょう。

なぜメタ分析なのか

メタ分析は、日本人研究者、特に私のような研究環境に恵まれていない多忙な臨床医が学術研究を行う上で優れた方法です。この手法は既存の研究論文からデータを抽出するため、自身でデータを収集したり、データの質に悩む必要はありません。すでに学術誌で発表された研究の中から、適切な変数で調整されたリスクの比などを用いて、効率的にリサーチクエスチョンを検証することが可能です。また、メタ分析は、最も高いエビデンスレベルに位置付けられており、疫学研究やランダム化比較試験(RCT)よりも確かなエビデンスを発信することが出来ます。こうしたメタ分析の特徴は、日本人研究者がトップジャーナルで成果を公表できるための最適解だと考えます。

メタ分析の特徴

メタ分析の特徴として、一般的に以下のものがあります。

  • 最も高いエビデンスレベルであり、最も信頼性があると考えられています。

  • サンプルサイズの限界からクリアな結果が得られていないトピックについて、メタ分析を用いる事で統計的パワーを上げることが出来ます。

  • 先行研究では一貫した結論が得られていない場合、メタ分析を用いることで包括的な結果が得ることが出来ます。

更に、私の経験から以下の利点が挙げられます。

  • 既存の研究論文からデータを抽出するため、自身でデータを収集する必要がありません。また、既存研究は、査読や編集者の確認プロセスを経ているため、データの質が担保されています。

  • 原著論文などに比べてハイインパクトジャーナルに採択されやすい傾向にあります。論文発表後は、被引用回数が伸びやすく、私の最大被引用回数は500回を上回ります(2018年発表後2023年7月まで)。

  • メタ分析論文は、ワンパターンな流れ作業が多いため、コツを習得すれば短期間で数多くの研究成果の公表が期待できます。私の場合、メタ分析を計画してから原稿完成までの最速記録は2週間で、年間最多論文発表数は10編です。

最大引用回数500回超
最大で年間10編を発表

メタ分析を習得する上での問題点

利点が多いメタ分析ですが、その独特のプロセスを習得できる機会は滅多にありません。日本はもとより、アメリカやイギリスでもメタ分析を行っている研究者はごく少数です。私の印象では、メタ分析論文の読解や評価、一般的な説明が出来る研究者はいても、全てのプロセスを正確に理解し、実行することができる研究者はほぼいません。当然、大学や研究室、医局の中でメタ分析の研究プロセスを学べる機会は非常に限られます。ネットからの情報は、読解が困難であるもの、内容が抽象的であるもの、信憑性に欠けるもの、具体的な方法が理解しづらいものになっています。

この記事の目的

最近、国内外の多くの研究者や医師からメタ分析についての問い合わせを受けており、潜在的な関心の高さに驚かされています。しかしながらメタ分析を習得して学術誌に投稿したいというリクエストのすべてにはお答えできていません。そこで、メタ分析に必要な知識と技術を習得できる場を提供したいと考え、この記事を執筆することにしました。今後、本稿では、メタ分析論文執筆に必要なプロセスについて、私の知識と経験に基づき、ステップバイステップに解説します。ご自身のペースで習得することで、メタ分析を実施できるようになり、原稿が完成する事が期待できます。メタ分析に必要な基本的な解説はもちろん、以下のような、これまでの長年の経験の中で編み出した、インターネットや専門書では得ることが難しい実践的なワザの数々を包み隠さず書いていきます。

  • 実際に使用しているオリジナルのデータ変換シートやスクリーニング用エクセルファイル

  • フォレストプロットやファンネルプロットの作り方

  • 海外の研究者にデータをリクエストする際の英文メール

  • あまり知られていない特殊なメタ分析手法(有病率、異なる指標の連続数の比較など)

  • 注目を集めている上級者向けメタ分析手法(メタ回帰分析:meta-regression analysis、用量反応メタ分析:dose-response meta-analysis)

私がそうであったように、メタ分析を習得する事ができれば、あなたの研究の生産性は急激に上昇し、今までにないペースで業績を積み上げていく事が可能になります。さぁ、私が愛してやまないメタ分析を習得して、あなたのキャリアを更なる高みに押し上げてみませんか?

更新履歴

2023.08.08 初版
2023.08.18 第2版
2023.11.15 第3版 2023年度のClarivate Highly Cited Researchersに選出


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