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【第2話】 来たことのない道に迷い込むと、なぜか嬉しくなった

 白いカードの裏に書かれた地図を頼りに、マリンは初めての駅に降り立った。
 学校の最寄駅から、いつもと反対方向に二つ。たったそれだけの距離なのに、改札を出るといつもと違う匂いがした。この街の匂い……不思議と懐かしい気がする。
 地図の住所をアプリに入れてみた。知らない町を歩くのは、子供の頃から好きだ。ちょっとだけ不安だけど、来たことのない道に迷い込むと、なぜか嬉しくなった。
 「たぶん、この辺なんだけど……」近くまで来てるのは確かなのに、アプリが赤くマークする場所には、シャッターの閉まった古い建物があるだけで何も見当たらない。何度も同じ道をうろうろしてしまった。
 「またここだ」何度目かの見覚えのあるシャッターの前に出て、ため息をつく。
ちょうど夕暮れで薄暗くなってきた。もう諦めて帰ろうか、そう思った時、
「入るの?」
と後ろから男の人の声がして、マリンはハッと振り返った。
 だぼっとしたシャツにヒゲをちょっと生やした男の人。髪がふわっと目の辺りまで覆っていて表情がよく見えない。30歳?もっと年上だろうか。怖い感じでもないけれど、ピシッとはしていない。どう見てもサラリーマンとかそういう仕事ではなさそうだ。スニーカーの足元が近づいてくる。
 答えに困ったマリンが「あの……」と焦っていると、男は「どうぞ」とシャッターを開けた。そこには普通のドアの半分くらいの小さなドアがあった。なんとなく不思議の国のアリスを思い出す。
 「いいです違います! これを拾って」マリンは勢いよく両手でカードを差し出す。
 「これ……」と何か言おうとしている男の言葉を聞かずに、
 「ここのですよね。お返しします。じゃ――」と帰ろうとすると、男は渡したばかりのカードをマリンの手に戻して言った。
 「これはキミにあげるよ」