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【第12話】 息を吸うのは吐き出すため、大声で叫ぶためだ

 ステージの上で何かトラブルが起きたみたいだ。
 小突きあったり掴みかかったり揉めているのが、離れたところからでもなんとなくわかった。順番にステージに上がっていた客のマイクの取り合いがきっかけらしい。
 「あ〜あ、盛り下がっちゃった」
 「何ケンカしてんだって感じ。せっかく楽しかったのに」
 近くでそんな声が聞こえてきて、マリンは心にチクっと何かが刺さった気がする。みんな一緒に楽しんでたのに、なんか自分のことばっかり。
 SNSでも感じることがある。みんなつながりを求めているように見えて、どこかすごくピリピリしていて。ちょっと何かあると一瞬で誰かを責めたり、突き放したり、簡単に断ち切ってしまうような気がする。
 「行ってくる」その時アキがボソッと、でも確かにそう言った。
 「え、待って。行くって?」突然動き出した彼にマリンは焦って声をかけた。
 「ねえ、ちょっと待って!」しょうがなく、アキについていく。反対側からやってくる人の波に逆らうように制服の背中を追いかけると、気がついて立ち止まってくれた。
 ブレザーのアキの背中から、不思議と強い決意みたいなものが伝わってくる気がした。
 さっきまで、マリンと同じようにステージなんか無理だって×を作っていたのに。
 少しずつ進んで、ステージの前まできたとき、
 「吃音なんだ」立ち止まってアキが言った。「え、吃音?」
「ずっと、どこか遠くへ行きたかった。新しい自分になりたかったんだ」
 アキも一緒だったんだ……。そう思っているとうまく言葉にできない何かが、マリンの中でCDのように回り始めた気がした。
 すうっと息を吸い込んだ。
 息を吸うのは吐き出すため、大声で叫ぶためだ。