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【第3話】 どんより雲が広がった夕方の空は、大人になっても変わらない

 「先生には僕の気持ちはわからないと思います」
 最近様子がおかしいからと放課後教室で話しを聞こうとした男子生徒にそう言われ、本村はドキッとした。それは自分が高校時代、教師に対して思っていたこととまったく同じセリフだったから。
 こういう時、だいたい次にどう言われたかも覚えている、そして今度は自分がそのセリフをなぞってしまいそうな気がして、ギリギリのところで踏みとどまる。
 「俺も高校の頃はそんな風に思ってたから、無理にとは言わないけど」そう前置きをして、窓の側に立っている生徒、高島の近くに座った。
 「話してみるだけで気がラクになることもあるしさ」と言いかけたが、「なんでもかんでも人と共有したいと思わない」と高島はかたくなな瞳で窓の外に目を向ける。彼の固く結んだ口元が、言葉よりもこれ以上聞くなと語っているようで、本村は小さく息を吐くとそうか、と返した。
 「いくら高校の時、同じことを思ってたって」教室を出ようとした高島が、ドアの前で立ち止まる。背中を向けたまま「違う世界に行ったんですよ。教師なんかになった時点で」吐き捨てるように言うと、そのまま出て行った。
 ポツンと一人残された本村は、しばらくそのまま席に座っていた。高校生の体を無理やり押し込めるようなサイズの机と椅子。押さえつけられているのは、体だけじゃない気がする。
 立ち上がると、さっきまで高島がいた場所から窓の外を見た。彼の言うように自分は変わってしまったのだろうか。
 どんより雲が広がった夕方の空は、高校生の頃に見ていたものと何も変わらないのに。