私の好きな乙一作品ベストテン

私は、乙一さんという小説家が10年くらい前から大好きで(さらっと書いたけど、そうかもう乙一さんのファンになってから10年くらい経つのか)、文庫化された作品はだいたい読んできました(単行本で出たやつは読んでない程度のにわかです)。
「カメラを止めるな!」の上映後のトークショーに乙一さんが登壇する、ということでわざわざその回を観にいったりもしました。というくらいには好き、という程度の話です。

さて、先日「メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション」というアンソロジーが朝日文庫より発行されました。
これは乙一さんが、乙一作品はもちろんのことながら、別名義である中田永一・山白朝子・越前魔太郎のそれぞれの名義で描いた作品を収録した”ひとり”アンソロジーです。
乙一さんは背筋も凍るようなホラー作品から、アッと驚かされるミステリ作品、切なさで涙がこぼれる青春作品、コミカルなファンタジー作品など、実に様々な作品を世に送り出しています。
”ひとり”アンソロジーである「メアリー・スーを殺して」は、その作風の幅広さを知らしめるようなすごい短編集でした。

そんな「メアリー・スーを殺して」を読み終えて、改めて私は乙一さんの作品が好きだなあと思った次第でして。
で、おもしろいなあ、好きだなあと思ったからには、誰かにこの作品たちをダイマしてみようかなと思いまして、この度筆を執らせていただきました。

ただ単に好きな作品のタイトルを羅列してみるだけではちょっとアレかなと思いましたので、私個人の主観のみで組み上げた「私の好きな乙一作品ランキング」として今回はお届けしたいと思います。
僕はランキングが大好きです。わかりやすいし、楽しいので。



第10位/暗黒童話

長編
集英社文庫「暗黒童話」収録

突然の事故で記憶と左眼を失ってしまった少女が、物語の主人公。
臓器移植で死者の眼球の提供を受けるのだが、その移植された左眼が、かつての眼球の持ち主であった人間の見た光景を映し出すようになる……というホラーミステリ長編小説。
左眼を失い臓器移植を受けるという序盤の設定がまず痛々しく、そこから始まる物語は終始おどろおどろしい。
長編でありながら読み応えたっぷりなので、ブラックなテイストがOKという方は是非、という感じです。


第9位/Calling You

短編
角川文庫「失はれる物語」収録

漫画版「きみにしか聞こえない」

映画版「きみにしか聞こえない」

友達のいない少女が頭の中で憧れの携帯電話の妄想をしていたら、その携帯電話がどこかの誰かと繋がってしまうという物語。
自信なさげな主人公も、どこかファンタジーな世界観も、ズキリと胸が痛む物語も、あっと驚かされる物語の仕掛けも、乙一さんらしいなあ! という感じ。
単なる青春小説として読んでもおもしろいというのに、そこからさらにひとつミステリ的な驚きを仕掛けてくるのが本当にすごいという感じですね。
映画版は主題歌をドリカムが歌っていて、吉田美和さんが「きみにしか聞こえない〜♪」と歌ってるのを聞くたびに、なんか不思議な気持ちになります。


第8位/SEVEN ROOMS

短編
集英社文庫「ZOO1」収録

映画版「ZOO」

謎の犯人によって、狭い小さな部屋に拉致監禁された幼い姉弟が主人公。
彼らの閉じ込められた部屋は床の中央部分に溝があり、その溝を伝って隣の部屋へと移動すると、そこには他にも何人もの人が閉じ込められていた……。
この作品は完全にホラー特化型の作品で、とにかく読んでいて背筋がゾッとする作品です。
作品を包み込む薄気味悪い雰囲気、クライマックスの衝撃的な展開、壮絶なラスト、その全てにおいて恐ろしいの一言に尽きる作品でした。


第7位/暗いところで待ち合わせ

長編
幻冬舎文庫「暗いところで待ち合わせ」収録

映画版

盲目の女性が独りで暮らす家の中に、殺人事件の容疑者である男が気づかれないように潜み始める。
盲目の彼女は自宅の中に誰かが潜んでいることに気がつくが知らないふりをし、一方で男もまた彼女の日常生活をこっそりと手助けをするようになる。
特異な設定を奇妙な人間関係が描かれ、とにかく読んでいて続きが気になる作品。
かなり不気味な設定だと思うのだけれど、主人公の2人が自然と互いを支え合っていく様子からか、読んだ印象はすっきりとしており、ミステリとしての完成度も高くおもしろいです。


第6位/手を握る泥棒の物語

短編
角川文庫「失はれる物語」収録

映画

お金持ちである伯母のハンドバッグを盗むために、ホテルの壁に穴を開けて手を突っ込んだら……誤って、伯母の娘の手を握ってしまった泥棒の物語。
壁越しに手を握り合う泥棒と娘、という状況がどこかコント的でおもしろいのがとてもお気に入りです。
あとこの作品は、全体を包み込むお間抜けな雰囲気ももちろんですが、オチがかなり好きなんですよね……。
乙一さんの描く女性像は言動がチャーミングな子が多いのですが、この作品で描かれている手を握られた娘もけっこうかわいいです。


第5位/しあわせは子猫のかたち

短編
角川スニーカー文庫「失踪HOLIDAY」収録

一人暮らしをするために引っ越した家に、姿の見えない幽霊と、1匹のちいさな子猫が住んでいた……というお話。
作中で描かれる幽霊の女性が、姿の見えない幽霊であるのにも関わらずお茶目で可愛らしい様子で描かれているのがとても良いです。
読み物としても心に染み入るものがあるのに加えて、ミステリ的な要素もバッチリと仕込まれているのがすごい。
……人生で初めて読んだ乙一作品なので、思い出補正もあってかなり好きな作品です。


第4位/失踪HOLIDAY

中編
角川スニーカー文庫「失踪HOLIDAY」収録

漫画版

血の繋がらない家族の中で疎外感を感じていた主人公の女の子が、使用人の部屋に隠れながら狂言誘拐を企てる物語。
こちらも人生で初めて読んだ乙一作品(確か収録順的に、「しあわせは子猫のかたち」に次いで2番目に読んだ作品になるはず)。
裕福な家庭の中にありながら血の繋がりがないため疎外感を感じる主人公の心の揺れ具合が切なく、かといって暗くなりすぎない程度にはポップさもある作品です。
初めて読んだ時は、心にジンとくるハートフルな物語だなあと思って感動していたのに、ラストにミステリとしての仕掛けも施されていたことを明かされてとんでもない衝撃を受けました。
清原紘さんによる漫画版は絵がめちゃくちゃ上手くて、一瞬で清原さんのファンになってしまいました。(清原紘さん自体、この後も何作品か乙一さんの作品のコミカライズに携わっている)


第3位/山羊座の友人

短編
朝日文庫「メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション」収録

漫画版

不良生徒からの陰惨ないじめを受けていた生徒が、ある晩その不良生徒を殺害してしまう。
殺害後の彼と行き会った主人公は、思わず自らの自宅に彼をかくまってしまう。
乙一さんの作品にしては珍しく、小説版を読むよりも先に漫画版を読んでいました(漫画版が出た当時、まだ作品が文庫化されていなかったため)。
漫画版を読んだだけでも「かなり好き!」だと思っていたのですが、改めて小説版を読んだ時に「めちゃくちゃ好き!」だと思いました。
いじめを苦にして不良生徒を殺害してしまった同級生の物語なのですが、読み進めていくとクライマックスには衝撃の真実が明かされます。
ミステリとしての完成度があまりにも高すぎる巧妙な仕掛けはもちろん、容赦無く涙腺を刺激する切ない結末もとても印象深く、読み物としての完成度が非常に高いです。
小説版のラスト数行は漫画版には無かった描写が描かれていて、その切なさに胸が張り裂けそうになり、改めてこの作品がめちゃくちゃ好きになりました。


第2位/エムブリヲ奇譚

短編集
角川文庫「エムブリヲ奇譚」収録

無名の温泉地を紹介する旅本作家である和泉蝋庵と、その荷物持ちである耳彦が主人公。
和泉蝋庵は旅本作家でありながらとんでもない迷い癖があり、温泉地を求める最中で世にも奇妙な場所へと度々迷い込んでしまう。
「エムブリヲ奇譚」は短編集ですが、いずれも旅本作家・和泉蝋庵……もしくはその荷物持ちの耳彦の物語であるため、「エムブリヲ奇譚」という1冊としてカウントしました。
とにかく旅本作家である和泉蝋庵の迷い込む不気味な村や不可思議な現象が描かれているのですが、読んでいて思わずゾッとする展開であったり、哀しい結末を迎えることの多い短編集です。
ですが描かれる作品はどれも設定がおもしろいものばかりで、自然とページをめくる手が止まらなくなってしまう……味のあるオムニバス作品でした。
この作品に関しては、「もっとこのシリーズをたくさん読みたい」と思っているくらいには、好きな作品です。


第1位/GOTH

長編
角川文庫「GOTH 夜の章」収録

角川文庫「GOTH 僕の章」収録

漫画版

映画版

動物や人間などの老若男女を問わず、手首だけを切り落として持ち去る「リストカット事件」を筆頭に、猟奇的な事件を描いたミステリ小説。
自分のミステリ小説に対する見方を根本から変えられてしまったような、そんな衝撃を受けた作品でした。
「夜の章」「僕の章」の分冊となっている文庫版では6つの物語が収録されているのですが、そのどれもが読み終えるとアッと驚かされているような真相が描かれています。
猟奇的でグロテスクな表現が非常に多い、ブラックな作品であるため読み手を多少選ぶようなところはありますが、ミステリ小説が好きなら一度は読んでみて損はない、というくらい好きな作品です。
自分はこの作品を読んで以降、ミステリ小説をよく読むようになったような気がします。



……以上です。

拙い文章でしたが、どれか1つでも、どなた様かの琴線に触れる作品があればと思います。

ほな、また。

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