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久しぶりのサラリーマンランチ

平日の昨日が休みだった。
用足しに久しぶりに梅田まで出て昼になった。

ここでも書いたがサラリーマン時代後半の昼は移動時間にあてることが多く、食べても弁当が多かった。
たまに外で食べる時はお客さんとの打ち合わせが多かった。

それでもたまに一人でのランチタイムは早い時間に会社を抜け出して、自分の鼻を信じてサラリーマンランチを楽しんだものである。
東梅田あたりから大阪駅前ビルあたりをウロウロすることが多かった。

その中で一軒、気に入っていたのが京都伏見の酒造メーカー『玉乃光』の直営店である。
最後に来てからもう五年も経とうか、その店は何も変わっていなかった。
接客は元気よく、明るい雰囲気の店で貴重な昼休みの数十分間、身を任せても後悔しないだろうと、どのサラリーマンも直感するのであろう。

そして、メニュー。
日替わりが680円、焼き魚であったりカラダに良さげな一品を中心に手をかけた副菜と生卵が付いてくる。
白飯と玄米ご飯を選択できるのも人気の一因だと思う。
他の定食も700円台、鶏の唐揚げ定食もあるが『和』が中心の店である。
お客さんの注文を見ていると日替わりが大半、そして玄米ご飯を選んでいる。

私たちのように昼飯にも健康を考えるような年代でなくとも若いサラリーマン達も玄米ご飯を食べている。
珍しさや、お得感からなのか、当時の私のように夜に備えての無駄な抵抗なのか、食べてるサラリーマン達の顔は不思議に健康そうに見えるのであった。

昨日の日替わりの主菜は鰆の粕漬け、副菜は鶏のハラミの麴焼だった。
そして、初めて酒を一合だけ頼んでみた。
純米酒の『玉乃光』の熱燗は私には旨口で京都でよく飲んだ懐かしい味である。
その頃、昼から酒を飲みながら昼の定食を口にする上品なご年配を時々見かけた。
私と同様、開店直後にやって来て、サッと飲み、食い、サッと帰って行った。
いつもセンスのいい普段着の私より年上の方だった。

人にどう見られるのか、あまり気にはしないのだがここではその方を思い出していた。
美味い熱燗を半分ほど口にして美味さを口に広げ、それをさらに胃に広げ定食を食った。
鰆に甘さを感じ鳥のハラミの歯ごたえを楽しみ、玄米の卵かけご飯を腹に流し込んだ。
そして残った酒を味わった。
定食が出て来てから10分ほど、こんな時間に長居は出来ない、少しでも回転を良くしてやって店に協力してやろうと、そんな習性は飲み屋をやっていたからではなくサラリーマン時代からそうであった。

伝票を持ち、レジ前で店先を見て「アッ」と気が付いた。
レジのおばちゃんは私の表情を見ていた。
「また利用してくださいね!」と。
あの頃は無かった500円の弁当が並んでいたのであった。
やはりこの二年間、大変だったのであろう。
それを乗り越えての今も変わらぬ心地よい接客があるのだろう。

こんな店は無くなって欲しくない。
変わらずいつまでもあって欲しいと考えながら少し火照った顔を冷やそうと地上に出て昨日とは違う冷たい立夏の空気に飛込み家路についた。



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