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単色のしゃぼん玉

出生時の無理が原因で生涯にわたる障害を背負しょわされた兄の治療費の大きさを感じ、私は子どもの頃から無心むしんなどをすることの無い表面上だけ物欲の無い子どもだった。
そんな私と兄を不憫ふびんに思ったのだろうか、節約節約の母が大切に使っていた食器用洗剤でシャボン液を作ってくれたことがある。
極限まで薄められた洗剤はそれでもシャボン液としてていをなしてシャボン玉を作ることが出来た。
虹色のシャボン玉はゆらゆらと宙に漂いながら単色に変わり、そして弾けた。
私はその不思議な色の移り変わりをいつまでも飽きることなく見ていた。
懐かしい思い出である。
老いた母はアルツハイマーを患い、ガンでこの世を去った。
はからずして兄に幸薄い人生を与え、それを自分の罪と生涯悔いてきた母が兄を忘れ、私を忘れ、やっと楽になった時には最期を迎えなければならなかった。
母の人生は思えば単色の長く続くシャボン玉のようであった。


子に帰る母しゃぼん玉の色うすれ
季語(三春): しゃぼん玉

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