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(職場と学校のリーダーシップ開発:その8=最終回)  新しい産学連携のかたち

前回と前々回では,研修によって社員や職員のリーダーシップを増強して,心理的安全性を確保したりVUCA対応やイノベーション創出を促す方法について説明した.大学教員がそうした研修の講師として依頼され,受講生が企業の社員であれば,教員にとっては学外活動ではあるが,教員は本務先が大学なので,一応は産学連携の一種である.ただ,「学」とは言っても学生は抜きであることが多い.他に特に理系に多いケースとして大学教員ないし研究室と企業の開発部門が協力して新しい技術・製品・サービスを作り出す形の産学連携の歴史も長い.この場合は大学院生や時に学部学生も共同研究に貢献することがあるだろう.

これらに比べて新しいのは,大学教員の学内の正課授業で学生と社会人(企業の社員や大学の職員)が学び合うタイプの取り組みである.企業が学生とディスカッションして学び合うような授業に社員を送り込むのは何故か.根本的には,第一に学習成果目標が,多様なメンバーからなるグループで発揮できるリーダーシップを身につけることにあるからだ.第二には,予め決められた(教員には分かっている)唯一の正解がないような授業内の課題解決プロジェクト(数週間におよぶ)において,社員と学生が互いに知恵を引き出して(つまり相互支援)成果に生み出すことにコミット(目標共有)し,心理的安全性を作り出すことに率先垂範するような,受講生側のリーダーシップを前提にしたアクティブラーニングの場に身を置く経験ができるからである.要するに,この取組に参加する企業の社員も学生受講生も,「学習する組織」のMakingに参加できるのである.課題解決型のリーダーシップ開発授業に企業の協力をいただくことは2006年から始めていて,2010年代になると上記のような社員と学生の学び合いという理解をもって社員を参加させてくれる企業が現れるようになった.

こうした授業形態の意義については,大学の教職員すべてに周知されているとはまだ言い難い.職員の多くには,また教員の一部にも,授業というのは,ヨリ知識を多く持っている者が,教えるという意図をもって教えて,知識の少ない者に伝達するものである(つまり教えるという意図のない相手から勝手に学ぶとか盗むとかといったことは想定も推奨もしない)という,相当に古い学習観がまだまだ残っているのである.従って,社会人が学生から学べることは少ないはずだし,教員が学生から学ぶはずもないことになる.

ところが,コロナ禍のもとで授業のオンライン移行でこうした学習観の新旧が予想以上に際立つ結果になった.2020春のオンライン移行当初は,対面授業なのかzoomによるオンライン授業なのかが教員・学生ともに最大の関心事であったが,学生の適応は極めて早く,2021年度には教員を追い越した感すらある.いまや「あの授業は対面? それともzoom?」ということよりも,「あの授業はリアタイ(リアルタイムの略か)かどうか」のほうがヨリ重要な関心事である.リアルタイム,つまりzoomであれ対面であれ,時間帯が指定されている(束縛される)か,それともオンディマンドで各自いつでも便利なときに視聴できるかである.そして,最も意欲的な学生でも,伝統的な知識伝達型の授業は全てオンディマンドにしてほしい,さらに,オンディマンドであるにしても特定の学期内の受講を要求するのであれば,同一学期に受講生している学生たちが共有できる何かが無いと,良い授業であるとは認めない.例えば教員と受講生の双方向の要素を加えるために,質問を受け付けるBBSが併設されている等である.

学生たちはどうやら,もしも曜日と時間も束縛して(オンラインでも対面でも)集合させるなら集合させるだけの価値のある授業にしてくれと考えているようである.学生にとって切実な事情として,例えばコロナ禍で減っているせっかくのアルバイト機会を,意味なく定時に集合させられる「リアタイ」授業のせいでフイにしたくないのではないか.集合する価値のある授業とは,(理系の実験や対人スポーツ実技を別とすれば)教員との対話はもちろん,それ以上に,学生同士,企業の社員が居るならそこに社員も加えたうえでの「リアルタイムの」ディスカッションと学び合いが発生するように仕組まれている授業である.

連載の終わりに
第一回の題名は「『権限によらないリーダーシップ」を理解し発揮する上司・先輩に新人が出会えるかどうか』であった.ここ15年ほどで立教・早稲田・共立女子・桃山学院をはじめ全国で20以上にまで増えた大学の「権限によらないリーダーシップ」開発プログラムを修了した卒業生たちも年々増えていて,毎年千人規模で輩出するようになる日も近い.彼らは既に,上級生は下級生に指示を出すのではなくて,下級生からどう発言を引き出してダイバーシティを活用するかが重要であることを学んできている.企業でも大学でも,VUCA対応・イノベーション促進に必要なこうした姿勢を,いまの管理職の皆さんはお持ちだろうか? これから管理職になる方々はどうだろうか?


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