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「愛の不時着」は南北統一運動かも

遅ればせながら「愛の不時着」(日本ではNetflixで配信)を見た(以下、かなりネタバレ含む).遅ればせなのは韓国映画を見る習慣がなかったから。これからはもっと見るような気がする。それだけ衝撃的だった.前半は率直な愛情表現の苦手な二人がすれ違い、後半は一転して燃え上がる.これまで半世紀間たくさん見てきた映画を振り返ると,そういうロマンス映画なら昔から繰り返し繰り返しいろいろな作品が作られてきたと思う。たくさんあるけれど質が高くて文脈が違えばそれぞれ楽しめる.このドラマでも魅力的で演技もうまい美男美女が揃っているし,さほど美男美女でない人たちの演技力も極めて高くいわゆるキャラも立っているのでますます面白い.ただ,そこ止まりなら「愛の不時着」は「衝撃」的というのではない。

 私にとって衝撃だったのは、制作側の人々の北朝鮮への見方である.主人公の二人は、ハンググライダーの事故で北朝鮮に不時着してしまった韓国の女性と,現地で遭遇した北朝鮮の若い将校だ。一目惚れしたのか,成り行きなのか,将校はこの女性を国境近くの自宅にかくまってしまうことになり,そこから女性の身分を隠したうえでの村人たちとの交流や,平壌に移動する道中の北朝鮮の「普通の人々」と交流する場面が数多くあるのだが,そのシーンが旅情と(それ以上に)郷愁に満ちているのである.つまり,南のワタシたちは物欲権力欲にまみれてしまっているけど,北朝鮮の普通の人々は,南のワタシたちがここ数十年で失ってしまった純朴さをそのままキープしている,という描き方なのだ.北の普通の人々との交流や恋愛で,忘れていた大事なものを思い出させてもらったので,これから南のワタシたちはより良い人になりたい・なれるとすら示唆している(ヒロインが南に帰ってからの変貌ぶり!).逆に南北交流スポーツイベントに参加する選手団の同行任務で南を短期間訪問することになった北の若い兵士たちには「北に戻ってからも,蛇口をひねってお湯が出てくるのを待っている自分に気づいてしまった」とか,「表カリカリ中身ホクホクのフライドポテトが忘れられない」などと言わせて高い南の生活水準を北の人々も楽しむだろうとアピールするのも忘れていない.主人公の二人以外にも親しくなった南北の人たちが「次に会うのはいつだろう」「それは南北が統一してからね.でも案外簡単に統一できちゃうかも」というようなことまで言わせている.こうした北朝鮮観に,韓国の視聴者がもし反発していたら,このドラマが韓国国内であれほどヒットするはずがない.その意味で,このドラマシリーズは,ロマンティック・コメディーwithサスペンスでもありながら南北統一促進運動でもあって,後者の面も韓国の視聴者の相当部分の感情を代弁しているのかもしれない.

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