私が出逢った2匹の仔猫(2)


朝6時前。
ミャーミャー2匹のか細い鳴き声で起こされ、まず仔猫にミルクをあげる。
4月とはいえまだ明け方は肌寒く、仔猫達はヒーターのそばでじっと丸まっていた。

朝起きて顔も洗わず、起きてまず一番に誰かの為に何かをするって、考えたらこれまでなかった気がする。
仔猫を置いて仕事へ出掛けるのはかなり不安だったが仕方ない。
とはいえ、初日はもう仕事が手につかずうわの空。
定時きっかりに退社した後は電車に飛び乗り最寄り駅から自宅まで猛スピードで全力疾走。不安な気持ちを抱えながら部屋の扉を開けたら、2匹は小さな体を寄せ合いスヤスヤと眠っていた。
その姿にホッとし、全身の力が抜けてしばらく座り込んでしまった。
なーんだ、私がいなくてもネコちゃん達は大丈夫なんだ。

その晩手のひらに仔猫を乗せお互いじーっと見つめ合った。
不安で悲しげな表情の仔猫を見つめていたその瞬間、ガブッと鼻をかじられ叫んでしまった。
ネコと目を合わせじっと見つめることは敵意を向ける事なんて、当時は知りもしなかったのだ。

週末、仔猫達を自転車に乗せ井の頭公園へ向かった。
2匹を預かったものの、ペット禁止のマンションだから早く飼い主さんを探さなくてはいけない。とはいえ、そんなすぐ見つかりはしないだろう。
一応家にあった画用紙に「この子達のママになって下さい」そう書きバッグに入れた。
ベンチに座って画用紙を横に置き、仔猫達を膝に乗せ日向ぼっこしていたら、小さなネコちゃんに気付いた子供達がやってきて、そのうちすごい人だかりとなってしまった。
すっかり2匹に魅了された幼い子供達は、仔猫達のそばをなかなか離れなかった。
その中のアメリカ人ファミリーの方が
小さなかわいい女の子二人も仔猫を見つめてほほえんでいた。
「これから家族でランチしながら飼うかどうか話してきます」。
とても流暢で丁寧な日本語の、父親らしき方がお名刺を下さった。雑誌の編集長さんだった。
あまりに突然の事で驚いたものの、こんな素敵なファミリーに飼ってもらえたら仔猫はどんなに幸せだろう。
そして、1時間も経たないうちに戻ってこられあっという間に1匹が素敵なファミリーに貰われていった。
私の手から離れ、新しい飼い主さんに1匹を渡した瞬間、何故か突然泣きたい気持ちになった。けど、今ここで泣いてしまったら目の前のファミリーを困らせてしまう。必死でこらえながら笑顔で手を振った。

しばらくすると、それまで我慢していた涙がボロボロ溢れ出て止まらない。
残された1匹をぎゅっと抱きしめ「もう今日は帰ろうね」
そう話しかけて歩き出し公園を出ようとしたところで、40代位の温かい雰囲気のご夫婦が話しかけて下さった。
「もしまだ飼い主さん見つかってなかったら是非引き取らせて頂きたいのですが」
一瞬戸惑った。
飼い主さんを探さなくてはいけないけれど、今日はもう離れたくない。
どうしよう。
けれど、これから先ずっと私の家で飼うことは出来ない。

ミャー、と不安そうに小さな声で鳴く仔猫の声で我に返った。
この子の幸せの為には淋しいけど離れなくてはいけない。
優しい眼差しで仔猫を見つめるご夫婦に「よろしくお願いします」そう言って手渡した。
もう1匹もあっという間に私の手から離れていき、仔猫と過ごしたこの5日間は夢だったのだろうか、そんな気さえした。

1Kのマンション、その小さな部屋へ戻ると改めて仔猫達はもういない事に気付かされた。
ガランと静かな部屋に一人居ると、とめどなく涙が溢れてくる。
ほんのわずかな仔猫達との生活は唐突に終わり、また私一人だけの生活に戻ってしまった。
まさかこんなにも胸引き裂かれる思いになるなんて、想像もしていなかった。

ひとしきり涙を流した後、温かい紅茶を淹れた。ダージリンの香りと共にじんわり体が温まっていくのを感じながら、仔猫達がこれから毎日幸せであるよう願った。

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