夏が遠い

 雪が降った
 いよいよ冬本番だ
 でも、どうしてだろう
 頭の中に浮かぶのは
 あの嫌いな季節、夏だ
 
 夏といえば暑い?
 暑いってなんだっけ
 忘れちゃった

 夏といえば何色?
 どんな色だったっけ
 忘れちゃった

 夏といえば鰻?
 どんな味がしたんだっけ
 忘れちゃった

 夏は
 どんな匂いがしたんだっけ
 忘れちゃった

 あれ、夏ってなんだっけ

 知識だけの夏の光景
 古いフィルムみたいに
 段々とノイズが走って壊れてゆく
 白黒映画に映る俳優を調べたら
 もう何十年も前に亡くなっている現実を突き付けられて
 なんとなく寂しくなるように
 当たり前のことも、そんなことも忘れちゃって
 
 みんなもそうだろう
 いつに間にか通り過ぎた季節を
 触れられない画面の向こうに
 ぼんやりと先に置いて

 寒い朝、張り詰めた石油の匂い
 雪かきをして
 凍える指先を温める
 小さな動物の足跡が森の方へと帰って
 私はスコップを仕舞う
 シーツの皺みたいな轍が風に吹かれ
 誰かの寝転がった跡が雪に埋もれる
 そんな賑やかな白い光景も
 夏になったら
 また忘れてしまう
 

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