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大学野球を初めて球場で観た、あの早慶戦で

私の大学野球デビューは、2020年秋の早慶戦だ。
今年、東京ヤクルトスワローズからドラフト1位指名された木澤尚文投手が慶応のエースピッチャーであり、私は彼をひと目見て「応援したい!」と思ったからだ。
偶然にも東京に滞在する時期と早慶戦の日程が被り、これは行くべきだと決心してチケットを購入した。

スワローズの試合以外で神宮球場を訪れるのは初めてだった。
甲子園が高校野球の聖地と言われているように、神宮球場も大学野球にとって大切な地であるのだ。それを実感させられる二日間になるとは、まだこの時は思ってもいなかった。

慣れ親しんだ神宮球場に到着して中に入ると、感染予防のために両校の応援団のみがそれぞれの外野スタンドで応援をおこない、観客は内野席で声を発さず観戦するスタイルでの開催。
久しぶりにブラスバンドの演奏がある応援に感無量になった私は、この応援を待ちわびてたんだと嬉しい気持ちになった。

また今年春からの朝ドラ『エール』を観ていたので、「これが生演奏の紺碧の空か...!」と感動で胸がいっぱいになった。

さて、この試合に来るきっかけとなった木澤投手は、ブルペンで投球練習をしていた。自分にとって明らかに輝いて見えるその選手は、丁寧に一球一球噛み締めながら投げているように感じた。
スタメン発表で彼の名前が最後に呼ばれると、「今日観にきてよかった!」とテンションが上がる。
この試合は、楽天とヤクルトのドラ1ピッチャー対決ということもあり、プロ野球好きにも大きく注目されていた。また早稲田と慶応の対決は昔から白熱していると聞いていたがまさにその通りだった。選手だけではなく、観客の気持ちの入れ方も凄さや重みを感じた。

試合は6回表まで投手戦で、6回裏の早稲田の攻撃からゲームが動いた。
7回表に慶応が追いつくも、その裏に勝ち越し2ランで引き離され、木澤投手もマウンドを降りた。結果は早川投手が完投して早稲田の勝利。これにより秋季リーグの優勝決定は明日に持ち越されることになった。

慶応側からすると、今日勝てば優勝が決まる試合で落としてしまったことを、木澤投手はエースとして責任を感じていた。そして翌日も投げるという情報を知った時、私は心の中がズキンと鳴ったのを感じた。それは応援しているからこそ感じる、頑張ってほしい気持ちとやり切ってほしい気持ちと背追い込みすぎないでほしいという気持ちが複雑に混ざり合ったものだったように思う。


翌日は午前中に予定があったので、ギリギリに球場へ到着した。
この日の先発はどちらも昨日とは違う投手。試合はこの日もロースコアの展開で、慶応が1点をリードしていた。8回から昨日先発した木澤投手がマウンドに上がりこの回を抑え、9回も続投へ。この時の私は「このまま木澤くんが抑えて優勝の瞬間が観れるんだろうな」と思っていた。
2アウトになり、7番の熊田選手にヒットを打たれ、その次のバッターが昨日ホームランを打たれた蛭間選手にまわってきたところで、私の心がざわっとした。
この"因縁"というものは、野球の試合で「え!ここでこうなるの?!」と思ってしまう場面で訪れることがよくある。特に学生野球(私の場合は高校野球)を観ているときに感じることが多いこの感覚。伝わるかな。

「勝負、するのかな......?」と思って観ていたが、慶応の監督はピッチャーの交代を告げた。
木澤投手がマウンドを降りる際、何か気持ちのこもった言葉を発していたのが見えたが、何を言ったのかは遠すぎてわからなかった。

次にマウンドに上がった生井投手の初球。まさかこの一球によって、劇的な試合になるとは思っていなかった。
前日ホームランを打った蛭間選手にバックスクリーンへ運ばれ、これが決勝打の逆転2ランホームラン。生井投手がバックスクリーンの方向を見ながらその場でうずくまった姿を見たときに、私も言葉にならない気持ちで胸が苦しかった。

ホームランを打った蛭間選手もベンチに帰ってきたときに涙を流していたことを後の映像で知った。またこの日ピンチの場面でマウンドに上がった早川投手の涙も見えた。
慶応の選手たちも早稲田の選手たちも全員が、これが4年生と一緒にできる最後の試合であり、4年生も自分たちにとって最後の試合で、ベンチに入れなかった4年生の気持ちや想いも詰まった最後の試合なんだという熱い部分を持っていて、その熱い気持ちが前面に出た試合だった。
だからあの場にいた観客全員、そして中継を観ていた野球ファンが心を動かされた試合だったように思う。


「応援したい選手がいるから行ってみよう」という気持ちから、「懸命なプレーと素晴らしい試合をありがとう」という気持ちに大きく変わった瞬間だった。

目標を持って、それに向かって自分たちの力を精一杯注ぎ込む姿は本当にかっこいい。
この感覚が、毎年のように高校野球を観ながら思っていた気持ちとすごく近かった。「そうか、毎年観ていた夏の高校野球が今年なかったから、懐かしい気持ちになったのかもしれない」とも思った。
そして大学野球の素晴らしさ、面白さをこの二日間で味わえたことにとても感謝している。来年からは大学野球も注目していきたい気持ちで胸がいっぱいだ。

木澤くんはこの慶早戦で感じた気持ちを力に変えて、ぜひ同じ神宮球場のマウンドで活躍してほしいのが私の願いだ。

楽天との交流戦で木澤くんと早川くんが投げ合う可能性だってある。もしそのときに木澤くんが勝利投手になったら、私はこの時の試合を思い出しながら涙ぐんでいるかもしれない。
その時も、投げ合っている姿が球場で観れたらいいな。


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