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弔い

彼の夏休みは、亡くなった祖母を弔う旅だった。
在りし日の祖母が「本当に綺麗だったのよ」と語った、北海道を回る旅。 わたしはそれについていくことになった。

彼の運転で、高速道路ではなく田舎道を走った。彼の祖母が見たであろう、目に飛び込んでくる北海道の大自然の豊かさを噛み締めるように、彼はハンドルを握って、時間を忘れて車を走らせた。

その旅はわたしの思い出の弔いでもあった。かつて住んでいた、もう会えない人たちと思い出を作った街。溢れてくる懐かしい記憶を語りながら、豊かな自然を眺めた。彼と過ごした新たな思い出を上書きしながら。
別れの時、彼は「みよのお陰で北海道の色んなことを知れた」と微笑んだ。
わたしが何を返したか、覚えていない。けれど。

わたしも、旅を通じて、貴方の色んな姿を知れました。今度は、わたしがあなたに会いに行く番です。そのときは、貴方の知る東京を、わたしに教えてください。

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