キッチン
土曜日の夜。
好きな人の家に行って二人でワインをボトル一本空けた。お互い適当に仕事の話だとか今やっている映画の話だとか好き勝手に喋り倒して、猫のように丸まってベッドへ横になって、そのまま眠ってしまった。
「お腹が空いたから、あとでインスタントラーメンを食べよう」
飲んでいる最中に好きな人はどこかのタイミングでそう言った。
インスタントラーメンは私が前回来た時に手土産で買ったサッポロ一番の塩味。
結局食べずに寝てしまった好きな人を「寝ているな」と思いながら暫く眺めていたら、なんだか私もお腹が空いて来た。サイドテーブルに置いてあるiPhoneのスイッチを入れると、時刻は深夜2時を回っていたが、お腹が空いたという文字が頭の中をぐるぐる回り始めた。
ラーメン、塩味、バターも入れたい。
元はと言えば、あれは私が買ってもってきたものだし、食べようとしていた好きな人は寝てしまっているし、もし何か言われたとしてもまた買えばいいだけの話だ。
早速、電気ケトルでお湯を沸かして鍋に入れる。その方が沸騰するのも早いし楽なのだ。沸騰したお湯の中に麺と申し訳程度にネギを刻んで入れる。すぐさま粉末スープを入れ、菜箸でぐるぐると混ぜていると、麺がほぐれてだんだん火が通ってきたのがわかる。
深夜に食べるラーメンはどうしてこんなにもきらきらして美味しそうに見えるのだろう。
この家にラーメン用のどんぶりは無いので、深めの器を取り出す。
めったに遊びには来ないので私の物は少ない。箸も来客用の物をいつも使っている。
ところで私は、伸びた麺類が大好きだ。ラーメンも、うどんも、スパゲティも少し伸びている方が心なしか嬉しい。こうやってどんぶりや箸の準備をしているうちに、火は早々に止めているけど鍋の中のラーメンを余熱で少し伸ばしているのだ。
テーブルにラーメン、麦茶、あと使いかけのバターを置く。
箸を忘れたと思い取りに戻ろうとキッチンへ行こうとすると、好きな人が起き上がっていた。
「トイレ?」
「うん。」
ドタドタと音を立ててトイレへ走って、用を済ませたらドタドタと音を立ててまたベッドにダイブする。そのまま寝てしまったようで、ラーメンにもまったく気づいていないようだった。
だるだるに伸びた深夜のラーメンは本当においしい。
あっという間にラーメンを平らげてしまい、流しで空いた丼をさっとゆすいで鍋にも水をはっておくだけにする。
キッチンに静寂が訪れる。完全に目が冴えてしまった。
ベッドで寝ているこの人は彼氏ではない、私が一方的に好きな人。
向こうは私のことは恋愛対象としてあまり見てないように思う。
このつかず離れずの関係になって半年経つけど、そろそろ終わりなのだろうなと自分の中で感じていた。明確に何があったわけでもない、でも私はもうこの人と一緒にいられないとずっと考えていた。多分、もうこの部屋にも来ることはないだろう。
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