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多重「人格」のこと(3)

ある晩、鏡の前で髪を乾かしていた時。髪を触る自分の手の感覚に、別の誰かの感覚が重なったように感じた。(『ブレードランナー2049』のジョイが、肉体を持つ女と重なり合う時の感覚は、こんな風だろうか?と想像した)

自分の髪を撫でる。誰かの感覚を通して、つるつるとした洗いたての髪の感触が伝わる。髪の感触がただ面白くて、何度も何度も撫でる。撫でている内に楽しくなり、笑顔がこぼれる。あ、『乳児』だな、と分かった。撫で続ける『乳児』の手の感覚を感じるのもまた、別の誰かだった。両者とも見つめ合い、とても嬉しそうだ。撫でられる髪の持ち主は、14歳の女の子だった。『思春期ちゃん』と名付けた。二人とも、何も言わず、ただニコニコと微笑んで見つめ合っている。お互いの関心と優しさだけで、満たされている。ずっとずっと続いた。そこには喜び。

ネグレクトされ振り向いて欲しかった赤ちゃんと、暖かな向き合いが欲しくてたまらなかった14歳の女の子が、出会った。これからは、ずっとずっと一緒に居られる。そして、2人は、喜びのまま私の中に溶けていった。

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