犬をかう ~ミアと家族になる!の巻~
人間社会の中で犬が自立して生活するのは難しい。犬は人が暮らすようには生きられない。
道路には人や車や自転車がたくさん行き来するし、犬には交通標識なんて読めやしない。狩りをすることだってままならないし、好き放題駆け回ることさえ危険なのだから。
そんな世の中で犬が生きていくには、食事の世話をし散歩に同行する人間が必要となる。ミアにとってはその人間が私。
ミアはペットで私は飼い主。
ミアにとって私は保護者であり友達であり姉妹でありパートナーであり、いつも近くにいる存在。同じ住まいに同居して、空間を共有する者同士。そういう関係。
これは前回からの続き。柴犬のミアと家族になるまでの経緯をまとめた話。
犬をかう
ミアは家にいる時はほとんど寝ている。安心しきった無防備な状態で寝ている姿を見ると、ホッとする。
そんな寝姿を見ながらつい考えてしまうのは、ミアはウチに来て良かったと思っているのか?ということ。時には厳しくもするけれど、それはミアの安全と健康の為だって分かってくれているのだろうか?
たまに反抗期の子供みたいな目つきで睨んでくることがあると、心がズキン!と傷む。散歩中の嫌々が過ぎると、嫌われてるなぁって感じることもある。
そんな時は心がえぐられる気持ちになって、涙が出そうになったりもする。
犬をかうということは、犬のきもちを考えて理解しようと努めること。犬も人間も両方が過ごしやすい環境を作ること。これが結構難しい。
犬を迎える
実際に犬を迎えたのは、ブリーダーさんを訪れてから約一年半後。
その頃はちょうど二拠点生活を実現させようとしていた矢先で、移動の多い生活が続いていた。バタバタとして子犬を迎えられるような状態ではなくなったので、生活が落ち着くまでしばらく待ったのだ。
一年後、ようやく犬を迎える環境が整い、ブリーダーさんに連絡をしてから引き取るまでに半年かかった。
そのブリーダーさんは、希望者が集まるまで交尾をさせない。そこで生まれる命は全て、誰かに望まれたもの。
そして私たちが望んだからミアが生まれた。
ミアとの初対面
夏、生まれて間もなく面会に行くと、二匹の赤ちゃん犬を紹介された。
どっちがいい?
事前に男女の好みを聞かれていて、女の子がいい!と答えていた。女の子の方が体が小さくて、何かあった時に無理なく抱えられる。特に柴犬は何かと拒否るので、大きい男の子だと私の手には負えない。
その時生まれた女の子は二匹。
一匹は置かれた場所から声のする私たちの方へ、のっそのっそと歩いて来る。ぷっくり膨れたお腹が重くてうまく前へ進めない様子が愛らしい。
もう一匹は呼んでも振り返らない。置かれた場所から明後日の方角へと歩いて行ってしまう。足取りはおぼつかないのに、結構なスピードでサッサと遠くへ行ってしまう。
ほらほら、こっちへ来て顔を見せてあげなさい、と、ブリーダーさんがちょっと困った顔をして連れ戻しても、あっという間にサッサと遠くへ行ってしまう。
ずんぐりむっくりとしたお尻と後頭部からは、意志の強さと存在感の大きさが半端なく伝わってくる。
いつの間にか、大物感がにじみ出るその背中から目が離せなくなってしまった。夫は近づいてきた方の子を撫でている。
どっちがいい?
選んでいいよと夫に言われて私が決めたのは、手元にいるおっとりとしたかわいい子ではなく、小さいのに大物感が漂う方。
ビビビっと直感で決めた。だってもう既に目が離せない!!
名前はミア(Mia)。
フランスでは生まれ年でペットの名前の頭文字が決められている。その年の『M』から苦労して絞り出した名前だった。
もちろん別の名前を付けても構わない。ただ、登録する名前にはMが付いていなければならないので、アポストロフィで調整するのだそうだ。
例えばPochiなら、M'Pochiとなる。登録名が本名。付けた名前が通称みたいなもの、かな。
家族になった犬
その後、生後二ヶ月半を過ぎた頃にミアを迎えに行った。
子犬の引き取りは生後二ヶ月以降と決まっている。それまでは母親と一緒に過ごすのだ。一緒に生まれた兄弟姉妹はみんな先に引き取られていて、ミアが最後だったと聞いた。
待たせてごめんね。
両手で抱きかかえると、ふわふわとしてじんわり暖かい。私の胸に顔をうずめてモゾモゾとしている。
まさか今から森の家を離れてパリへ行くなんて想像もしていないのだろうな。そう思うと少し申し訳ない気持ちになった。
自然豊かな森の家で仲間と一緒に駆け回っていた方が幸せなんじゃないか。
ウチの子でいいの?
心の中でそう問いかけてみた。もちろん答えは返ってこない。
知らないニオイのする人間に抱えられて、知らない場所に連れて行かれるのは不安だったに違いない。家に着いてから二日ほどは、ソファーの下から出て来ようとしなかった。
ご飯も食べない、水もほとんど飲まない。
散歩に連れ出しても、用を足すだけでほんの少ししか歩かない。
衰弱死してしまうんじゃないかと真剣に心配し始めた三日目になってようやく、ゆっくりと部屋の真ん中まで出て来るようになった。
それからは日を追うごとにマイペースでやんちゃな性格が露見し、気付いたらすっかり仲良くなっていた。
相変わらず意志が固く我の強い子で、私たちがあっちへ行こうとするとこっちへ行きたがり、こっちへ行こうとするとあっちへ行きたがる。単なる天邪鬼なのか、ただ嫌と言いたいだけなのか?
リードを引っ張り過ぎて首輪が抜けた事も一度や二度じゃない。交通量の多い街中で脱走したこともある。
泣いて笑って心配して安心して、一緒に暮らして早、六年の月日が経つ。そんな毎日の積み重ねを経て、今はお互いが居て当たり前の存在になった。
この先何年一緒にいられるか分からないけど、最後の最後まで仲良く暮らせるといいな。
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