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夏夜の本屋で新しいルーツと出会う

雨を連れてきたみたい。日本へ入国したと同時に東京が梅雨入りし、福岡へ移動した途端にこちらも梅雨入りした。

地元に馴染みつつ、手続きや身体メンテナンス中心の2週間。そして、実家たるものをとことん味わっている。赤ちゃんにつきっきりだった前回、前々回の帰省に比べて、できることが増えた。限定的な夜を味わい尽くす。

主を変えた家に生るトマト

実家へ久しぶりに帰ったら物が多過ぎてびっくりした。両親が祖父母宅へ移ったのは数年前。一人で住んでいた亡き祖母は整理整頓がうまく、家の中はいつもさっぱりしていたのに。
そんな祖母の遺影にご挨拶する。最後に会いに行けんでごめんねぇ。お仏壇に向かい、手を合わせて目を閉じる私を、長男が不思議そうに見る。「グランマとお喋りしてる」と告げると、ますます眉をひそめた。祖母の代わりに断捨離しよう。

しばらく続いた雨がようやく上がり、洗濯物を外に干した。アメリカは乾燥機文化のため、この作業が久しぶりだ。
ふと庭を見渡すと、トマトが生っているのに気付いた。きゅうりに茄子、ゴーヤ。どれも立派。お仏壇への配膳や線香焚きを毎日欠かさない父ならではの手柄だろう。
祖父母の痕跡が少しずつ消え、両親の色に塗り替えられていく。こうして、いつかは兄か弟の家族が暮らす家になるのかな。

大切に残されたルーツたち

断捨離が苦手な母を責められない。2階の一部屋には、家を出た兄と私の漫画がわんさか溢れている。処分してもいいか幾度となく聞かれたが、兄妹揃って拒否。ルーツという名の甘え。
めぞん一刻、シティハンター、るろうに剣心、スラムダンク、キングダム、NANA、天は赤い河のほとり…初巻に手を付けたら止まらない長期連載。危険地帯。

吉本ばななに銀色夏生。そうだ、そうだった。言葉や文章に憧れ始めた記憶が蘇ってくる。

隣りにあたる旧・弟の部屋を仕事用に使わせてもらう。彼は今ひとり暮らし中。ここも主を失った独特の空白に満ちている。あてがわれたテーブルやマグカップがちぐはぐで、実家だなぁと思った。この家に長く住んだことがないから、個人的な私物はわずかしか置かれていない。その「よそ者である」感覚が、郷愁をうすめてくれる。それぐらいでちょうどいい。地元はひとたび外を歩けば思い出ばかりだもの。

ほろ酔い晩酌と夜の本屋

父母ともにお酒が好きで、うちには昔から晩酌文化が根付いている。夕飯のときにプシュッとビールが開き、「飲む?」と聞かれるので「じゃあ、飲む」なんて流れになる。増えゆく酒量。
とはいえ、軽く1〜2杯ぐらい。スーパーに並ぶノンアルコールも試してみよう。

雨が降っていなければ、酔い覚ましと食べ過ぎの対策に小一時間歩いている。アメリカで、夜の散歩は治安上できない。
家から15分ほど歩き、23時まで営業の本屋へ出向く。海外に住んでいると電子書籍が中心だ。偶然の出会いが欲しい。ぐるりと一巡して、梨木香歩さんの単行本を手に取った。「本と物語をめぐるエッセイ集」なんて書かれていたら、買わずにはいられない。本棚がまた埋まる。

🍅

馴染みすぎて、父や母と小競り合い。無遠慮が過ぎる私を、遠方から会いに来てくれた兄が嗜める。兄はいつも「感謝しなさいよ」とか「気遣ってあげて」とか、こっそり耳打ちする。変わり者だが、いつも正しいお兄ちゃん。

環境が落ち着き、友達と約束を交わし出す。今週はここで出会った方々とのスペシャルな会合があった。不思議なはじめまして@福岡。それについては、今後もいくつか控えているので、改めて書きたい。

元リアルがリアルに、オンラインがリアルに。日本では時間の流れがゆっくりに感じるのは、なぜだろう。まさに非日常の日常。失いつつあったものをぎゅっと詰め込んでいる。

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