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『星を継ぐもの』ノート

ジェイムズ・P・ホーガン著
池央耿 約
創元社SF文庫

 久しぶりにSF小説を読んだ。実に面白く、2日間(通勤電車2往復)で読んでしまい、この原稿を書くために再読した。
 SF小説に限らずだが、この作品は実に丹念に伏線が張られており、一度では分からない箇所がいくつかあった。

 一般に海外の小説は、人名になじみがないのと、箇所によっては、著者がファーストネームとセカンドネームを使い分けており、「あれ? これ誰だっけ?」なんてことも時々ある。
 私だけかもしれないが、本文の扉裏にある登場人物の一覧を何度か見返しつつ読んだ。

『星を継ぐもの』(原題:INHERIT THE STARS)は1980年に翻訳本の初版が出ており、描かれている時代は2028年である。いま読んでも、相当進んだ世界や科学技術が出てくるが、1980年(いまから43年前!)は、ほとんど荒唐無稽な空想科学のように思われたかもしれない。しかし、いま読むと、コンピュータの性能も含め、この作品の世界に少しずつではあるが近づいているように思える。ネタバレになるから詳細には触れないが、「殲滅兵器(アナイアレーター)」だけは実現してほしくない。

 プロローグでは月面にいる人物の置かれた状況が描かれている。時代は明らかにいまではない。

 そしていま、その月面にて深紅の宇宙服を着た人類の遺体が発見され、チャーリーと名付けられた遺体の所持品などを年代測定にかけた結果、約5万年前のものと判明したことから、それを巡って生物学や遺伝学など多くの分野でさまざまな論議が沸き起こる。彼らは、チャーリーは明らかに地球上の人類と寸分違わないと断定する。5万年前に人間を月に送る技術などないのはわかりきっているなかで、さまざまな解釈が提起される。

 メモのようなものが残っており、チャーリーが使っていた言語も明らかに地球上のものではない。ここでは言語学者が協力してその翻訳に挑戦し、その内容が少しずつわかってくる。カレンダーらしきものも判明したが、一年の長さが1700日にもなり、明らかに地球上の人類ではないと科学者は断定する。
 またその装具は地球上で作られた合金でできている。彼はどうして月面にいるのか、いったいどこからどうやって来たのか。まったくいまの人類と同じ人間なのに彼は異星人なのか。謎は深まるばかりだ。
 さらに木星の衛星ガニメデからは2500万年前のものと思われる超巨大な宇宙船が発見され、その中には人類とは明らかに進化系統を異にする巨人の骨格が発見され、ますます謎は深まるのだ。

 このSF小説は人類の進化の過程での「ミッシングリンク」を中心テーマに、太陽系を舞台に壮大な物語が組み上げられている。この作品が著者ホーガンのデビュー作とは驚きだ。

『星を継ぐもの』の面白さは各分野の各分野の科学者たちが次々と発見される大きな謎に挑んで、さまざまな仮説を提示し、議論を戦わせるところにある。それぞれの学者のよって立つ理論がいまも正しいのか、筆者は寡聞にして知らないが、そんなことは関係なく楽しめる作品だ。
 SF小説好きな方で、まだ読んでいない方にお薦めしたい。

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