見出し画像

『美術の物語 (The Story of Art)』ノート

エルンスト・H・ゴンブリッチ著
河出書房新社刊
 
 この大判の本(縦約25センチ、横約18センチ、厚さ4センチ3ミリ、668ページ)は、重量は約1.5キログラムもあり、手に持って開くわけにはいかない本である。それも本の重さだけの理由ではなく、スペイン・アルタミラの洞窟に描かれたバイソン、フランス・ラスコーの馬の壁画(ともに紀元前16世紀~11世紀頃)など人類がまだ文字を持たなかった先史時代から始まり、建築、絵画、彫塑など現代美術までの歴史を俯瞰した視覚芸術分野における歴史書として格調高く内容の濃い本であり、ちょっと気軽に開ける本ではないからである。
 著者のゴンブリッチは何度も改訂を重ね、最終は第16版で世界の販売部数は合計約800万部と言われている。これだけのロングセラー・ベストセラー本は聖書を除いて余りないのではないか。
 1950年の英語での初版以来、20数か国の言語に訳され、日本語版は2019年に初版が河出書房新社から刊行されており、4刷を重ねている。
 
 私の手元にあるのは、この16版の翻訳(日本語版4刷)である。若い読者を想定して書いたというだけあって、辞書を引かねばならないような専門用語はほとんど使われていない。机の上の書見台に載せていまでもほぼ毎日開いている。
 
 著者は初版の序文のなかで、この本の編集にあたっての原則あるいは方針が4つあると書いている。
(1)図版に載せない作品については本文でも論じない。
(2)本物の芸術作品だけを取り上げ、趣味や流行の見本として興味を引くだけの作品は除外する。
(3)よく知られた傑作を、個人の好みで閉めだしてはならない。(この方針は多少の自己否定を要求するもので、作品を選ぶときに自分らしい独創性を出したい気持ちはあったけれど、私はその誘惑に負けまいと心に誓った、と正直に書いている。)
(4)どちらを取るか迷ったときは、写真でしか見たことのない作品よりも、実物をこの目で見た作品を取り上げるようにした。
 
 それでも、ヒンズー美術やエトルリア美術については触れられなかったし、興味深いが取り上げなかった芸術の巨匠たちはたくさんいるとし、もしそれらを全て取り上げると、本の厚さは2倍から3倍(13センチ近く)になったであろうと書いている。ただ、4番目の規則を自分で破っている箇所もあるので、そこに私(著者)の思いを読み取る楽しみが読者には残されているとして、読者に対して「それがどこかわかるかな?」と宿題を残している。
 
 個人的に少し残念なのは、私が好きな絵が取り上げられていなかったことだ。ヤン・フェルメールの「真珠の首飾りの女」、クロード・モネの「日傘をさす女」、マルク・シャガールの「街の上で」等の作品だ。この著者の解説を読んでみたかった。
 
 ページを繰りながら気がついたが、所々が二つ折りや三つ折りになっていて、大きく広がり、大きな絵画を見ることが出来るのが素晴らしい。1ページや見開きに絵を収めようとすると、絵が小さくなったり真ん中が切れたりするのが残念なのだが、この本はその点を、折り込みページを採用することによって回避している。元編集者から見たら、製本(費用)が大変だなと思うような永久保存版の素晴らしい本であった。
 また巻末の詳細な索引の前にある美術史の年表も、今も遺跡として残る建築物などの成立年代や、芸術家の生きた年代などが記されており、人類の文明と芸術文化の関わりが一望できて面白い。
 

この記事が参加している募集

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?