[書評] 魔法の言葉88
矢作直樹『魔法の言葉88』(ワニブックス、2022)
猫のように自分軸を持って生きる
と、言われても、やや困る。よくわからない。
著者はさっそく助け舟をだす。
〈泰然自若として空を見上げている猫の姿〉を思い浮かべてもらえばいいと。
こんな感じか。(下)
「自分軸」に近いところにいるときの自分が自分らしさということだという。
そのときに大事なのは、〈自分にも周りにも感謝を持って眺めた「自分軸」〉だと。
この〈感謝〉がポイントで、〈自分への感謝を通して先祖にも感謝するという気持ちが自分軸を強く〉するという。
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もう一つ大切なのは〈思考を停止しない〉ことだと著者は言う。
近年の流行り病の騒動で、〈政府や役所、特にメディアはまったく当てにならないということがわかりました〉と著者は書き、つづけて、〈自分の身は自分で守らなければならない、ということ〉だと説く。
そのために〈合成の誤謬〉を頭に入れておかないと、思考停止に陥るという。
〈合成の誤謬〉とは、経済学用語で、〈個々の場面では正しく見えても全体としては悪い方向へ向かってしまうような理論、判断〉の意味と、著者は説明する。
例として、医師の著者らしい例を挙げる。〈人にうつしたくないという気持ちから幼い子どもにまで日常的にマスクをさせることは、その生理的負荷から確実に脳機能を低下させることがわかっていますし、将来的に意思疎通障害者を増やす可能性が予想されています〉と著者は書く。
〈これらはすべて思考停止の問題〉であると著者の矢作直樹氏は断言する。
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本書は、一見すると、人生訓をゆるーくエッセー風に88集めたもののように見えるが、実は「魔法の言葉84」に、縄文時代について鋭い指摘がある。題は「日本の根っこは世界の根っこの縄文時代」という。
その章の叙述の鋭さは周りから完全に浮き上がっており、ははあ、なるほど、本当はこれが言いたかったのかと、わかる。
世界の四大文明よりはるかに古い1万6500年前から存在した縄文の時代の現存する遺物(大平山元遺跡)。ある意味で今よりも進んだ縄文の文明。例えば、〈全国の山の上に皆で意識を合わせて磐座をつくりました〉と著者は書く。さらに、〈天体の運行もわかっていました〉と。
〈何よりも、高次元の意識への対応の仕方をよく知っていました〉と著者は述べ、すぐあとに〈縄文土器は、その形と紋様によりトーラスというフリーエネルギー理論の実践としか考えられません〉と書く。〈その仕組みがわかっているからこそ、縄文人はこのような紋様の土器をわざわざつくったわけです〉と。
評者はこの箇所を読んだときに、へたりこみそうになった。なるほど、あれはトーラスなのか、と。
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〈日本の文化はここ数千年の間に大陸から伝えられたものだと思っている人が多いようですが、大本はそうではありません〉と著者が述べるのは、〈日本列島を原点として縄文文明を担った人たちは1万5000年ほど前から、その知恵を伝え広めるために世界中に散っていきました〉ということがあるからだ。
ゆえに、著者は〈縄文は、世界の文明の根底にあるのです〉と力強く宣言する。
このように、日本をめぐる文化の伝播のベクトルを、日本へ向かう向きとは反対の、日本から世界へ向かう向きへと修正する言説を含む書物が増えてきた。著者にはもっとこの方面のことを書いてもらいたいものである。
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