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私は天花娘娘!パリピだよ!

 そのOLは、頭にペコっと花が咲いていた。
 ああ、頭に花が咲いている。いいな。と思う人がいるかもしれないが、誰も気にしない。それだけだ。彼女は街の風景に溶け込んでいる。彼女は頭に花が咲いたOLでしかない。
 ちなみに、この頭の花はアホ毛のように、感情表現までできる。自由自在だ。
 彼女の姓は千鳥足、名は舞子と言った。字はマイマイと言う。無論、カタツムリじゃない。母親が香港出身で、中国語と英語と日本語のトリリンガルだ。語学の世界を鳥のように羽ばたく。だがいつも酔っぱらっているので、夜の街を千鳥足のように舞う。シメはちゃんぽんだ。
 彼女は、相模郡原町田辺りで、毎晩、酒神バッカスと戯れている。パリピだ。
 実は天帝が地上に送り込んだ、対疫病究極人型決戦兵器なのだが、遊んでいる。
 娘娘(ニャンニャン)の神格を持ち、天帝の愛娘の一人なのだが、実はちょっと緩い。
 彼女は天性のアホだったので、人々は笑顔になる。才能だ。空気だ。コメディアンだ。
 最近の物価上昇で、原町田の飲食店街は、壊滅的な打撃を受けたが、彼女が行くお店は必ず大繁盛し、飲食店街の女神として崇められていた。例のギャル軍団も率いている。
 お陰で毎晩忙しく、彼女はお店を回っていた。いつもお店から招待されるので、無料だ。彼女的には、ただ飯、ただ酒だったので、何の問題もない。楽しく騒ぐだけだ。実は彼女一人分の飲食代なんて、お店的には大した事はない。それよりも集まる人の多さが売上に貢献した。
 彼女は女神様でもあるので、目の前で、勝手に道が開ける事は、割とよくある。
 彼女は何事も深く考える事なく、動くタチだったので、周りは苦労するが、それでも人々は彼女を歓迎した。彼女の笑顔、空気、存在が人々に喜びを与えていた。まさに天花(ティエンホワ)だ。娘娘として、それほど格が高い訳ではないが、人々から妙に愛された。
 ローカルな女神として、力を発揮し始めていたが、彼女に目を付ける悪い奴らもいた。
 特警だ。偵察総局だ。いつも防疫法違反か、無銭飲食の疑いで追い掛けていた。だが真の狙いは、彼女の誘拐であると思われた。どういう訳か、彼女が何者であるか知っていた。
 無論、酒神バッカスを始め、そんな事は許さない。だからいつも追いかけっこをやっていた。
 「……おい、あんまり人を呼び過ぎるなよ。また奴らが来る」
 バッカスは心配した。舞子は電話でどんどん人を呼んで、酒場を貸し切り状態にしていた。
 「え?気にしな~い」
 彼女は両手にスマホを持ち、左右の耳で二人同時会話していた。会社で教わった。営業に必要なスキルで、退職した上司から教わった。メール打ちながら肩電話&パンとかもよくやる。
 そう言えば、あのカチョー、こないだ選挙に出ていたが、どうなったのか?気になる。
 そんな事をやっていると、舞子は、マリー・マドレーヌとばったり会った。
 「久しぶりー!千年ぶりー?」
 「久しぶりー!千年ぶりー!」
 ハイタッチをやった。そのまま流れるような動作で、二人は向かい合って、アルプス一万尺の振り付けを始める。最初は緩やかに、そして最後の方は超早業になっていた。
 そのうち千手観音状態になる。今、ドーンと音の壁を破った。お前はすでに死んでいる?
 「さっすがマリー。この私についてくるなんて」
 舞子は振り付けを終えると、額の汗を拭った。頭のお花もキラキラしている。
 「伊達に聖母マリア様に鍛えられていないからね」
 マリーは笑顔で言った。超高速『猫ふんじゃった』とかも弾ける。
 二人はそこで笑い合った。二人は友達だった。もう長過ぎて、よく分からないくらい間が空いても、友達だった。いや、もしかしたら、天地創造の頃からそうなのかもしれない。
 「……千年とかどんだけズッ友なんだよ」
 「死語死語~」
 ギャルとガングロが会話している。
 「……ていうか、なぜアルプス一万尺?子供の手遊び、幼稚園のお遊戯だろ」
 「正直、女神・聖女のやる事はアタシらの理解を超えてるわ」
 「幼稚園とか保育園も彼女たちの監督下にあるから、あの手のお遊戯の源流なのよ」
 扇子を扇ぐイケイケが訳知り顔で言った。だがそんな話、初めて聞いた。本当か?
 「……ああ、聖母マリア幼稚園ね。聞いた事がある」
 ギャルが言った。この世界のどこかに存在するらしい。その保母さんの一人がこのマリーだ。
 今マリー・マドレーヌと名乗っているが、あれはマグダラのマリアだ。彼女も聖女様だ。
 「……私の教え子が悪い宇宙人にさらわれてね。助けるの手伝って欲しいの」
 マリーは相談した。
 「オッケー」
 舞子は即答した。でも自分は花なので、戦闘には向いていない。歌って踊るのは得意だが。
 「いざという時は、武闘派のジャンヌが退路を確保してくれるから安心して」
 「……へぇ、それは安心だね」
 舞子は頷いた。また旗を立てに来るのか。彼女はどこにでも神の旗を立てる。
 「でも今日はパーティーだから、難しい話は後でね」
 「うん。ありがとう」
 二人がそう言葉を交わすと、死神美少女が通り過ぎるのが見えた。クレープを持っている。
 「あ、小死神。来てくれたんだ」
 舞子が声を掛けると、その死神美少女は頷いた。
 「しばらく日本にいるから、顔くらい出しておこうかと思って……」
 「へ~。そうなんだ」
 舞子が笑顔で死神美少女に答えると、会場の一角がどっと沸いた。
 見ると、三人の老人がいる。仙人、花咲爺、そしてサンタクロースだ。
 老人ホーム「桃園会」の連中が集まって騒いでいる。またお酒で遊んでいるのだろう。
 白酒や日本酒の瓶からお魚を出していた。その場で捕まえて、食べようとしている。
 もの好き、野次馬、冷やかしのトリオもいた。彼らも謎の男たちだった。
 舞子が率いるギャル軍団と似たような存在か?
 「仙人のお爺ちゃん~」
 舞子が手を振ると、仙人も答えた。
 「天花(ティエンホワ)、天界の家出娘。最近、里帰りしたか?」
 仙人にそう言われると、舞子は照れた。
 「……天のお父様は元気かな?」
 「天宮は忙しい。地上の上場企業は週三休みだが、天界は週七労働だ。月月火水木金金だ」
 仙人はのんびり言った。お役目御免で暇になったため、地上のあちこちに出没している。
 「そうなんだ」
 今は特に里帰りは考えていないので、天界の家出娘のままでいいやと思った。
 「……マイマイ、そろそろ準備して」
 ステージ裏から、ギャルが声をかけた。
 そうだ。今日はお披露目がある。準備しなくちゃ。
 舞子はその場でくるりと回って、水の羽衣を着た天女姿に変身した。バックライトが輝く。
 バッカスがエレキギターを鳴らすと、ギャル軍団がステージに立つ。
 皆が何事かと注目すると、舞子はマイクを逆さに握って、小指を立てた。
 「你等等(ニードンドン)♪、你等等(ニードンドン)♪」
 (あなたちょっと待って、あなたちょっと待って)
 「今天咱們休息休息吧(ジンティエンザンメンシィウシシィウシバ)♪」
  (今日、私たちちょっと休みましょう)
 「你忙不忙?(ニーマンブマン?)、你忙不忙?(ニーマンブマン?)♪」
 (あなた忙しい?あなた忙しい?)
 「我不忙!(ウォブゥマン!)♪」
 (私は忙しくないよ!)
 「你喝茶嗎?(ニーホーチャーマ?)你喝茶嗎?ニーホーチャーマ?)♪」
 (あなたお茶飲む?あなたお茶飲む?)
 「但我喝酒了!(ダンウォホージォラ!♪」
 (でも私はお酒が呑みたいな!)
 「我叫天花娘娘!(ウォジャオティエンホワニャンニャン!)♪」
 (私は天花娘娘!)
 「我是帕里皮!(ウォシィパリピ!)♪」
 (パリピだよ!)
 ギターが弾けて、バックダンスが踊る。舞子はステージから指差した。
 「Youドンドン、Youドンドン♪」
 「Today we are終始終始お休み♪」
 「Are U忙しい?Are U忙しい?I have ヒマ!♪」
 「Do U take a cup of tea ? Do U take a cup of tea ?♪」
 「でも私はお酒が呑みたいな!♪」
 「私は天花娘娘(ティエンホワニャンニャン)!パリピだよ!♪」
 舞子がステージの上で跳ねると、酒場は沸いた。
 「……Thank you~谢谢!(シエシエ)」
 熱狂が高まり、もう一曲と思っていると、酒場の出入口の扉がバンと勢いよく開いた。
 「御用だ!御用だ!」
 警棒と東京都の提灯を下げた特警が雪崩れ込んで来た。一斉検挙だ。
 「東京都だ!全員動くな!防疫法違反の疑いで逮捕する!」
 特警は東京都の紋所を高らかに掲げた。なぜかひれ伏す人までいる。
 「うわ、最悪」
 ステージの上でギャルがそう言うと、ガングロが舞子の腕を掴んだ。
 「マイマイ!逃げるよ」
 「よし、みんな!解散!ズラかれ~!」
 舞子はそう叫ぶと、音が入ったままマイクをポーンとステージから投げて、コンクリートの床に落下させた。会場に凄い音が響いて、簡易音響弾の代わりになった。
 その隙に関係者は、ステージの裏から逃げ出した。
 「マイマイ、こっちだ!」
 バッカスが裏手に止めてあったスクーターに乗る。
 「うん!」
 舞子はスクーターに二人乗りすると、酒神を後ろから抱きしめた。
 いつだって悪い官憲から逃げる時が最高に興奮する。ルパ〇か?銭〇か?カリ〇ストロか?
 「どこへ逃げる?」
 「――面白い方へ!」
 舞子は後ろから夜空を指差した。

          『シン・聊斎志異(りょうさいしい)』エピソード48

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