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バナナを食べて出血するレベルの歯ぐきが回復するまで

妻にときどき感謝を伝えることがある。

「歯医者に連れていってくれてありがとう」

と。

歯医者なんて自発的に行く人の気がしれない。あんな恐ろしいところは、トラブルが起きてから行くものだ。そう思っていた。

妻は違った。いつもはこわがりのチキン坊やのくせに、歯医者だけは定期検診に行く猛者だった。どうやら若いころに歯科矯正で歯医者に通い、場所の耐性を得たらしい。

「ぜったい行ったほうがいいよ」

ほら、予約するから、いくよ?はい、きまり!と半ば強制で何年ぶりの歯医者に連れ出された。

というのも、歯をみがくといつも出血していた。自分はすっかりそれに慣れてしまっていて、「いつもこうなんだよね」とほほえむ始末だった。

決定打だったのは、バナナを食べて歯ぐきから出血したことだった。自分の歯ぐきはバナナの固ささえも耐えられないのかとさすがにショックを受けた。

いざ、歯医者へ。

歯ぐきから血が出ることを伝え、まずは歯科衛生士さんに歯石の除去をしてもらう。

「はい、うがいしてくださーい」

ウィーンとうなりながら紙コップにそそがれた水をそそくさと口にふくんだ。

「血が出ますが気にしないでくださーい」

と言われたがいつものこと。べーっと吐き出した。白い洗面器が紅に染まった。出すぎ。ボクサーのインターバル。

「歯ぐきに歯石がたまって歯ぐきが腫れてますね」

とのことだった。そんなことになっているとは。

院長先生が来て口の中を見た。

「あー!腫れてるねー!歯ぐき!」

どうやらわかりやすく腫れているらしい。

そのあと、歯科衛生士さんに小学生ぶりにブラッシングのレッスンを受けた。

歯ぐきと歯の間に歯ブラシをあてながら、小刻みに横に振動させる必要があった。

最初のうちは血が出る、今は歯ぐきの先が腫れて丸くなっているがすこしずつ三角に引き締まってくるという説明を受けて治療は終わった。なぜかレッスンで使った歯ブラシをお土産に渡された。

その後、コツをつかんだ自分は歯ぐきを細やかにブラッシングし始めた。なるほど。歯みがき=歯ぐきへのマッサージだとイメージできてからは、歯みがきが心地いい時間へと変化していった。

何日かすると、血が本当に出なくなった。これまでの出血が嘘のように。口をゆすいで吐き出した液体も白い。驚きの白さ。物足りなさも感じるほどだった。

妻に歯ぐきを見せると、

「おお!歯ぐきがピンク色に!そして引き締まってきている!」

と興奮していた。

歯みがきの正しい習慣が手に入るだけで、こうも結果が変わるとは。もし、妻と出会わなかったら、そのうち自分の歯ぐきは崩壊していただろう。

治療よりも予防が大事。

歯医者、いこう。

早めに、いこう。

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