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偶然が重なれば必然

ここ数年はパンデミックもあり、バックパックを置いて、国内を自転車で走り回っている。
2冊目の著書はヒマラヤの麓を旅した話だが、3冊目は四国を自転車で

自転車は私の世界を広げている。

先日、28歳の若者から突然メッセージが来た。
東京を一緒に走りましょうという。

面識はないが、このメッセージが届くまでいくつもの偶然が重なっていた。

1年前、私は四国一周の自転車の旅を計画していた。
ただ後輩から譲り受けた古いシクロクロスのブレーキの調子がどうも悪い。自転車屋さんを3軒回っても直らない。
出発が迫りだんだん焦ってきた私は、思い切って、以前から気になっていた自宅近くの自転車屋さんに飛び込んだ。

そこはいつも職人さん風の男性が1人黙々と夜遅くまで作業していて、いかにも玄人専門という風情だった。

素人の私がいけば、「こんなのも自分で直せないのにツーリングとか舐めてんの?」と説教でも喰らうのではないかとビビって敬遠していたのだ。

しかし、そんな不安は杞憂だった。めちゃくちゃフレンドリーな方だった。しかも腕は見かけ通りピカイチ。ものの2、3秒でブレーキの問題点を見抜き、あっという間に直してしまった。

プロ中のプロに出会った興奮に乗じて、四国旅行の相談をすると、「友だちが四国にいましてね」と愛媛と高知の県境にあるUFOラインの絶景写真を見せてくださった。

こんな景色が日本にあるのかとまた興奮したのだが、その1年後に私にメッセージをくれた若者が、この写真を撮影した張本人だったのだから驚きだ。無論、その時の私は何も知らないのだが。

そして、私は四国を自転車で旅した。

初日あまりの暑さにヘトヘトだったのだが、愛媛出身の呑み友だちから「ぜひ寄って」と言われていた珈琲屋さんに寄ることにした。

そこは、私の3冊目の著書にも登場する「みんなのコーヒー」さんなのだが、先の若者は毎日のように通う常連さんだった。

1年後、私の3冊目の著書が「みんなのコーヒー」さんに積まれることになり、その若者が著書を読んでくださり、私に興味を持ってくださったわけだ。

さらにもう1人。この若者の知人のサイクリストさんが愛媛に走りにきて、やはり「みんなのコーヒー」さんに行き、私の本を買ってくださった。その方もあの職人さんの自転車屋さんで整備をお願いしているという。

しかも、その方は東京の私の住まいからそう遠くないところでレストランをやっていた。

メッセージをくれた若者は東京出身で、愛媛の新居浜に転勤になっていなければ、きっと私の著書を手に取ることもなかっただろう。

私とて、あの自転車屋さんに飛び込んだのが接点のはじまりだし、「みんなのコーヒー」さんに寄らなければ、あの旅は本にすらなっていなかったかもしれない。

会ったこともない人たちだけれど、同じ自転車屋さんを起点に、遠く愛媛の新居浜にある珈琲屋さんで交わった。それぞれ、これは一度会った方がいいのではと思ったのではないだろうか。

そして、私は若者のお誘いに乗って、一緒にコーヒーライドを楽しみ、後日、そのレストランに行き、三人で「いやー、なんかいろいろと共通点があってびっくりですねー」と気づけば終電となっていた。

「偶然が重なれば必然」とは、最近ハマっている韓流ドラマのセリフで、ドラマの方は、仕組まれた偶然なので必然に決まっているのだが、今回のような実生活で偶然が重なると、出会うことが必然に感じてしまう。

そもそも「みんなのコーヒー」さんを紹介してくれた呑み友だちは、ボランティアで知り合った人の友人だった。

毛嫌いしていたボランティアに飛び込まなければ生まれなかった縁だ。

縁をつくってくれたボランティアさんは、悲しいことに昨年、病気で亡くなってしまったのだが、人の縁というのは、こうやって紡がれていくのだなと思った。

それもこれも新しい領域に飛び込んだことによる展開なのだろう。

そういえば、ハマっている韓流ドラマも最近チャレンジしはじめた新たな領域だ。

もちろん未知の世界は怖いし、リスクはつきものだ。ボランティアでは、トラウマになるような思い出もある。

でも、40も過ぎれば、自分の好みや合う合わない得手不得手もわかってくる。新しいことに挑戦といっても、まあまあ長続きする気がする。

ここ3年、週3、4回のペースでボクシングジムに通っている。青春時代の敗者復活のつもりで熱心に励んでいる。

ここ2年ほどは、4、5行の簡単なメモ程度だが、日記をつけるようになった。1日を振り返る癖がつき、多少は日々を大切に感じられるようになっている気がする。

次は、鳥取と島根を走る予定だ。いずれもこれまで訪れたことのない地。
旅は億劫だが、踏み出せば必ず新たな何かがある。だからまだまだやめられない。

東京荻窪の隠れ家フレンチ『ポワン・ドゥ・デパー』にて


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