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日本の弁護士の端っくれがスタートアップの本場シリコンバレーに飛び込んでみる(た)という話

どうも、はじめまして。Mick Kimiyaです。

本日は2024年1月1日です。いよいよ2024年が始まりましたね。みなさま2023年はどんな年でしたでしょうか?私にとっては公私ともに激動の年でした。12月30日に計画的徹夜をして大方の仕事を片付け、大晦日はRIZINの試合を見ながら、家族でゆっくりと過ごしました。それにしても今回のRIZINには、いつも以上に感動をもらいましたね。生まれ変わったら総合格闘家になりたいと思います(すぐに影響を受けるのは良いところだと思っているポジティブ思考です笑)。

さて、新たな一年が始まったということで、Noteを開始しました!

私は、東京にheadquarterのあるTMI総合法律事務所の弁護士ですが、2023年11月から、TMIのシリコンバレーオフィス(TMI Associates Silicon Valley LLP)に参画しました。米国法務、特にスタートアップやベンチャーファイナンスに詳しい日本人弁護士はまだまだ少なく、インターネット上の情報も不足していると感じますので、このNoteでは、日米のスタートアップ(ベンチャー)実務や、会社法・雇用法・プライバシー法などの米国法実務を中心に、色々な話題に触れていければと思っています。

さてさて、まずは、弁護士の端くれである私がなぜシリコンバレーに来ることになったのか、ということからご説明したいと思います。

時は2013年の年末、ちょうど10年前に私は日本の弁護士として登録をしました。そこから10年、日本の弁護士として、日米の投資案件、スタートアップのサポート、M&A(企業買収)、会社法案件、不動産関係、訴訟、離婚、相続、などなど、いろいろな案件で、さまざまなクライアントをサポートしてきました(そして、もちろん、今も日本の多くのクライアントをサポートし続けています)。

日本にいたとき、眼の前にある仕事を必死にやり、他の弁護士には仕事の量でも質では負けないという自信もありました。私個人としては、日本での仕事がとても楽しくやりがいがあったこともあり、当時、自分が海外で仕事をするなどということは一ミリたりとも考えたことがなかったというのが正直なところです。

しかし、今から6年くらい前に、事務所のとあるパートナー弁護士(上司)から木宮はとりあえず留学に行くべきだという熱い指導を受け、私はそこから留学を目指し、英語(TOEFL)を猛勉強を開始します。ここから私の人生は一変することになります。

紆余曲折があり、留学の前に証券系のプライベートエクイティファーム・ベンチャーキャピタルへの2年間の出向をするのですが(この出向先で、事務所ではおよそ経験することのできない貴重な投資業務を幅広く経験させていただき、このことは、徹底的にクライアント目線で仕事をするという今の私の仕事におけるポリシーに結びついています。)、その後、2021年から米国ヴァージニア州にあるのUniversity of Virginia, School of Law(ヴァージニア大学ロースクール)に留学し、引き続いてカリフォルニア州のSan Diegoにある法律事務所にて1年間勤務します(米国におけるスタートアップのサポート、会社法、知的財産、プライバシー、労働紛争など様々な案件を担当しました)。VirginiaとSan Diegoでの2年間の経験は、私にとってまさに、"life-changing event"だったと断言できます。

ヴァージニア大学のキャンパスは本当に美しかったのですが、この話題はまた別の機会に…

その2年間、私は、日本にいたときには味わったことのない激しい危機感を覚えたのです。

University of Virginia(ヴァージニア大学)では、世界中から集まった50名前後の法律関係者(弁護士・裁判官・検察官・法務部員など)と同じクラスで1年間の時をともにしました。そこで感じたこと。それは、世界の人たちは、日本になど目を向けていないということ。誤解を恐れずにいえば、日本はもはや「先進国」だと思われていないということ。これから先、日本はどうなってしまうのか。生まれ育った日本のことをずっと誇りに思っていた私は、残念な気持ちと行き場のない無力感に襲われました

ただ、そのことは、日本にいた時から、たしかに頭では理解していました。

1989年の世界時価総額ランキングでは、上位50社中日本企業が32社を占めていたのです。私はそのとき3歳でした。そして、その33年後の2022年、日本企業は上位50位中1社のみ(31位のトヨタ自動車のみ)となってしまいました。なんとも悲しいことです。

出典:STARTUP DB「2022年世界時価総額ランキング。世界経済における日本のプレゼンスは?」https://journal.startup-db.com/articles/marketcap-global-2022

このような日本企業の低迷を受け、日本円の実質実効為替レートは、過去最低の71.62にまで低下し(2023年11月)、なんと1ドル360円の固定相場制だった時代よりも円の価値は低下しています。

こうなってしまった原因については、いろんな方がいろんなことを言っていますし、多分答えは、誰が正しいということではなく、基本的にはみなさん正しいのでしょう。経済政策、日本の文化や慣習、IT化やグローバリズムへの対応、経営者のマインド、消費者のマインド、雇用法制、地理的環境、ビザ制度、生産性の低迷・・・さまざまな要因が複合的に重なり合い、残念ながら、日本にとって激しい向かい風となってしまったのだと思います。

このような日本の低迷にはいろいろな要因があるとはいえ、一つ言えるのは、大きな要因として、①IT化・インターネットの時代にイノベーションを生み出せていないこと、そして、②グローバル化の波に乗り遅れていること、の2点があるというのは間違いないでしょう。

つまり、日本では、イノベーションを生み出すスタートアップが活躍できていない。そして、成功したスタートアップも、グローバル規模ではほとんど活躍できていない

Crunchbaseのデータベースによれば、ユニコーン企業の数は、アメリカの733社に対し、日本はわずか14社。中国(272社)、インド(86社)のみならず、イギリス(59社)、ドイツ(39社)、フランス(29社)、イスラエル(26社)などに大きく引き離れされている上、韓国(21社)やブラジル(19社)よりも少ない現状はなんとも寂しいものがあります。

出典:Crunchbase, The Crunchbase Unicorn Board」
https://news.crunchbase.com/unicorn-company-list/

先ほどの2022年世界時価総額ランキングの1位Apple、4位Alphabet (Google)、5位Amazon、6位Tesla、7位Meta (Facebook)はいずれも当初はVenture-backedであった会社であり、現代ではスタートアップが世界を支えています。また、米国のS&P500からGAFAMを除いた株価(S&P495)の推移は、日経トピックスとほとんど同じ動きをしています。成長しているように見える米国も、GAFAMを除けば平凡であり、逆にいえば、日本の低迷の原因はGAFAMのような会社が生まれていないことだと言ってもよいかもしれません。

出典:ITmedia「S&P495で分かる ブーム化する「米国株投資」に隠れた”歪み”」https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2009/11/news032.html

そして、このような状況に大きな影響を受けて、日本の経済収支のうち「その他サービス収支」の赤字がここ数年で急速に拡大しています。財務省の発表によれば、2022年は5兆1451億円の赤字と、統計開始以来の規模を更新してしまいました(なお、2023年は上期のみで3.7兆円の赤字と、この傾向は拡大を続けています)。これはデジタル赤字と言われるもので、ネット広告やクラウドサービスにおいてお金が日本から海外に流れてしまったのが主な原因です。思えば、YoutubeやNetflixでの動画視聴、ZoomやTeamsを使ったWeb会議、XやFacebookの利用、AppleのiCloudやAWSのストレージ利用、私達の日常生活は米国企業の提供するサービスで成り立っています。他方で、モノの輸出も増えているわけではなく、このままでは日本円の価値はどんどん低下してしまいます

このような現実に気付かず、今でも「日本はすごい国だ」「我々は頑張っている」と(ある種不合理な)誇りを持ち続ける。留学前の私のように、とにかく何も考えずに(あるいは、考えないようにして)眼の前の仕事をやり続ける。このような現実を「みんなで窓のないエレベーターに乗っているようなものだ」と表現した人もいます。窓がないから気づかないだけで、実はどんどんエレベーターは下降しているのだと。いや、留学前の私を含め、多くの人はそのような現実に頭では気付いているのだと思います。気付いてはいるものの、それから目を逸らし続けている…。

じゃあ、どうすればいいか?残念ながら、私はイノベーションの創出とは程遠い人間です。私一人でこの状況はどうにもならない。しかし、この状況をどうにか少しでも変えられないものか?弁護士の端くれである私でも何かできることがあるのではないか?留学中の2年間に、そのような思いを持つようになりました。

弁護士として私ができることは何か―。

それは、自分で起業はできなくとも、エコシステムの一員として積極的にグローバルに関与すること。具体的には、今まで10年間の日米弁護士経験を生かして、①リーガル面を中心として(そして、リーガル面に限らず、)スタートアップがイノベーションを生み出す力を加速させるようなサポートをすること、②企業がグローバルに活躍するお手伝いをすること(そして、一般論として、その舞台の一つとして関係してくる国/地域として最も可能性が高いのは、アメリカだと思います)、そして、③日米両国を知る実務家として、世界の投資家や起業家の目を日本に向けさせること(日本市場を世界にアピールし、インバウンドを掘り起こす)。これらが日本を再生するために、遠回りに見えるかもしれないけれど、弁護士である自分ができることの中では最も近道で有効な手段なのだ、と信じています。

そして、このような3つの使命を果たすことは、もちろん日本にいても可能かもしれませんが、「物理的に」シリコンバレーに来ることが"Best of the best"であると考えました。

シリコンバレーで働く決意をすることで、木宮は日本を捨てたのだという悲しいことを言う人もいるかもしれません。しかし、私は全くそんなふうには考えておらず、そのことは、上記を読んで分かってもらえると思います。むしろ私は、この道を選ぶことによって日本を再生し、ひいては世界を良くすると信じています。

「シリコンバレーは死んだ」と言われることもありますが、それは間違っています。シリコンバレーのスタートアップ・エコシステムは、今でも世界一であり、これは間違いありません。アメリカは広大で、シリコンバレーのほかにもニューヨークやボストンをはじめとするスタートアップシティが沢山ありますが、その中でも、アメリカ全体の30%以上の資金調達がシリコンバレーで行われています。シリコンバレーでは、自然と都会が調和した絶好の環境の中で、日々、全世界から優秀な人材が集まり、起業家やそれを取り巻くプロフェッショナルたちが協力し合いつつも切磋琢磨し、ベンチャーキャピタルから資金を調達をし、そして上場やM&Aでエグジットをしていく。そのダイナミックさに私はすっかり魅了されました。この土地で日本人が活躍し、世界に羽ばたいていくのを全力でサポートしていきたいと思っています。

そして、私には4人の愛する子供たちがいますので、将来、子供たちのうち一人くらいは、シリコンバレーで次世代の世界を担う会社を興してほしいと思っています(笑)

TMIのシリコンバレーオフィスには、2024年1月1日現在、私を含めて3名の弁護士、1名の弁理士、1名の研修生、2名のスタッフが所属しており、米国西海岸にある唯一の日系大手法律事務所のオフィスとして、少人数ながらも抜群のチームワークで、さまざまなご依頼に対応しています。ベイエリアにいらっしゃる際は、ぜひお声をお掛けくださいませ。また、私は日本と米国を頻繁に行き来していますので、日本でもみなさんにお会いできる機会があると思います。初めての方は、こちらのページの「お問い合わせ」からご連絡ください。

さて、イントロはこの程度にして、次回からは具体的なスタートアップ実務の話、米国法の話、そしてシリコンバレーにおける住環境などなど、色々と発信していきたいと思います。

それでは、これからどうぞよろしくお願いいたします!

Mick

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